[女の振りが堂に入った所で、嫌われることで引導を渡してもらおうと思って一度だけのつもりで帰省したのに。
幼馴染も老尼僧も、普通に受け入れられてしまって。
むしろ自分の帰りを本当に嬉しそうに喜んでくれる姿を見てしまったら、これっきり帰らないなんてもう言えなかった]
それから何度も、何度も帰ってきては、伝えられない想いを募らせるだけで。
何時か別れの日が来たら、もうこの村には帰らないだろう、そう思い続けていた、けれど]
…これからも、帰ってくるわ。
アタシのピアノ、カルメンも好きだって言ってくれたから。
[きっと、老尼僧なら微笑んでくれるだろう。
もしかしたら、目の前見えないだけで喜んでくれているかもしれない。
そんな風に思うだけで胸を占める嬉しさに、20年来の初恋を拗らせている厄介さを自覚して。
ちゃんと失恋しそこねたんだから仕方ないわね、と苦笑を落とした**]