[それじゃまた授業でと手を振る同学科生の背に、ひらとまた手を振って別れた。その背にかける声は心の中でだけ。]
(ありがとう。)(ごめんね、でも。)
[仕切り屋、と揶揄される事もある同科の生徒。
面倒見がよく、少し浮いた生徒にも軽ーく遠慮なく話かけるような、いわゆるいい奴。
杖の事を持ち出したのも、媒介を変えない自分に、それとなく気を使ってくれたからだ。
いい人だよね、とは思う。
でも“ビー”と呼ぶのは勘弁して欲しかった。
呼ばれたのは多分偶然。頭文字からでも取った略称だと思う。
だけどその渾名は、向こうの世界に置いてきたものだ。
『“ベルティルデ=B=ボルノマン”って、Bが3つ付くから“ビース”だね。』
と最初に言ったのは一番古い友人、親友とも呼べる子だった。
ビー、は向こうの自分の名だ。
だから呼ばないで欲しいと、混ぜないでと、思うけれど主張はしない。
口にして、本心が浮き彫りにされる事を恐れていた。]