[それでも、甥をそのまま放り出す事を選べなかったのは、兄夫婦の想いを知るが故。
だからこそ、父の研究を引き継ぎたい、という甥の願いを無碍にはできず、故郷へ帰して。
──その選択肢は、正しかったのか、どうか。
その答えは、見えない、けれど。
最後にこちらに顔を出したときの様子は。
あの地に戻したことは間違いなかった、と思えるものだったのも、事実で]
「……ツィンカ。エーリがこの間頼んでいったレシピ集は、出来上がってるかい?
……『妹』に、あげたいんだと言っていたもの」
[手紙を畳み、妻に問う。返されたのは、肯定]
「……それじゃあ、それを届けに行こう。
兄さんの墓にも、大分無沙汰をしているしね」
[そうして、あの子が最後に何を見ていたのか、何を思っていたのか。それを聞きたい、と思いつつ。
ふと転じた窓の向こうでは、春を告げる花が静かに揺れていた。**]