―嵐の前―
[依頼人である老紳士を見送って
鍛冶師である男は革手袋した利き手で後ろ頭を掻いた]
スティレットに野葡萄、かぁ。
[今度成人を迎える孫への贈り物だと彼は言っていた。
彼の家は確か剣の名手を多く輩出していると記憶している。
どうして長剣でなく短剣、しかもとどめを刺すに用いる物を
わざわざ選んだのかを考えて小さな吐息が漏れた]
――…そういえば、
[陳列棚の前まで歩み、しゃがむ。
棚の奥に手を伸ばし引き出すのは依頼品と同じ短剣]
親父、これ覚えてる?
俺が初めて一人で打った剣だけど――…