……こうしてみると、本当に…何も無いな。
[部屋の中の様子を見て、小さく呟いた。
生きている間にはこんなことを思った事も無かったが、改めて自分の私物を見てみると生活に最低限必要なものしか手元に置いていなかったのだと気付く。
他人から見れば何の価値も無い、けれどそれでも自分には愛着のあるものばかりだった。
自分に両親の記憶は無い。
唯一の肉親であった祖母も15になった年に他界している為、遺品を引き取りにくる者もない。
祖母を亡くしてから自分一人で生きるだけで精一杯だったから、時間や金を趣味に使う余裕なども無く。
何か特別価値のある物を持っていたわけでもない。
だから、此処にある物はすべて廃棄処分となるのだろう。
それが寂しくて、悲しくて。
でもどうすることも出来ない。]
そういえば…この本。まだ読み切っていなかったな。
[デスクの上に置いたままだった文庫本に気付き、手を伸ばす。
透り抜けていく指先に微かに顔を歪め、目を伏せた。]