……あ。そろそろ行かなくちゃ、かな。
[どれくらいそうしていただろう。
何かに気付いたようにそう呟いて、名残惜しそうに毛並みから手を離して。立ち上がり、エーリッヒに手を差し出す]
エリちゃんも、一緒に行く?
[そう尋ねる娘の姿は、死の間際の二十歳すぎのものではなく。
子供の頃、クロエとエーリッヒとユリアンと4人で、一緒に駆け回り遊びまわった頃のものになっていた。
いっしょにあそぼ、と年上のクロエと一緒に遊びに誘ったときと同じ笑顔で。
植物の図鑑を広げていた少年の手を引っ張って連れだしたときと同じような仕草で。
けれど、子供の頃とは違い、無理矢理に引っ張っていくのではなく。エーリッヒの反応を待った。
エーリッヒがその手を取るかどうかはわからないけれど。
いずれにしても、幼かった頃の姿をしたままで。
幼い頃に、幼馴染と一緒に駆け回った森と良く似た景色を駆け抜けて。
東の空にのぼってきた光に向かって、走り出すのだろう**]