[あの後、主二人の首を抱え、人間では一晩で越えられないだけの山を越え川を渡った。足がその形を崩すまで走り続けて、力尽きたところで少しだけ眠った。
目が覚めたら首を森の奥に木枝で穴を掘り埋めた。暗い場所だったが、見晴らしの良いところは怖かった。そうして、そこから一番近い村へ降り、盗賊に襲われたと偽りそこに居ついた。
大事なものを失って、でも代わりに同じくらい大切なものが手に入った。
幼子が手を引いて、自分の先を歩いてゆく。子供にされるまま、後をゆっくりついていく。
時折子供の手が揺らぎ、ほんの一瞬獣のそれへと変わる。それを見つけると足を止めさせ、屈み目線を合わせて穏やかに注意する。気をつけなさいと。
人前で自分が獣である事を知られてはいけない、人は餌だが、とても恐ろしいものだからと、幼子にはやんわり諭し教えた。
子供は素直に頷いた。明るい笑みを浮かべて。
それに柔らかに笑み返すと、立ち上がり、辺りを見て――足が止まった。
丘には見覚えがあった。
忌まわしい記憶と。
それでもなお懐かしい思い出が、そこにはあった。]