[鼻につくのは話だけでなく、他の獣や女の残り香。
水を浴びたって早々に消えるものじゃない]
………ごちそうさま。御代はユリアンの奢りにしとく。
[つんと鼻を背けて、早足に店を後にする。
抗議の声なんて聞きたくもないが、追いかけて来ないのは問題外。
工房までの距離を追いつけないなんて、疾風の名が廃るってもの]
……ユリアンの馬鹿。
[扉が閉まる寸前の声は、昨夜と同じようでいて違うニュアンス。
追いつかなかった=追いかけなかった。それが明確な答え。
一ヶ月の無視を決め込んで、鍵をしっかり閉める。
鼻に残る匂いが消えるまで、絶対顔なんて見せるものかと。
ヤキモチと対抗心ともつかない感情をいらいらと*持て余しながら*]