[ふいに聞こえた枝の音、突然降りてきた何かにすかさず子供の手を引き抱き寄せる。もう失うのは嫌だったから。
まだ2つになったばかりの幼子は、きょとんとした眼差しのまま母親の胸の中に収まった。
降りてきた何かを、僅か驚いたように見据える。
先ず頭にあるのは、さきほどのあれ。
この子が獣になる様を見られただろうか。
もしそうならばこれを殺さなければ。
たった一つ、大切なものを守らなければと思うのに。
そんな思いを、がらがらと音を立てて崩すのは。
見覚えのあるバンダナと、紺色の髪。
顔は、見えない。
子を抱えて、少しだけ後ずさる。
顔を見たいのに、見たくなかった。
――そこに居る人に恐怖した。]