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[名前を呼ばれた。昔の、捨ててしまった名前。
あの穏やかな村では誰も呼ぶ事がない、無くしてしまった名前だった。
ほんとうは、髪を見ただけで気づいたのに。
認めたくないと、思ったのはどうしてだろう。
胸の中には不安、警告。おそらくそれは、再び無くしてしまう恐怖。
だけどそれと同じくらいの甘い蜜が胸を埋めていく。
見つめる鳶色の瞳は腕に抱く子と同じ色。
ありがとうと、すまないと、愛してると、言い残して置いていった人。
決して忘れることのなかった人。
目は分かれた時のように痛そうじゃなくて。
苦笑するような顔は、途方に暮れてるようにも見えて。
どうしてそんな顔をしているんだろうと思ったら、胸の中の子がむずがって身じろいだ。
ああ、なんだ。私が怯えてるからかと。
ようやく理解って、少し、息を吸ってから口を開いた。]