[始まりなど覚えていない。
気がついた時には人狼だった。
傍には老人が一人。彼に手を引かれて旅をしていた。
皺枯れた老人は色々な事の、ほんの基本的な知識を授けた。
自分が人と違う者である事。
自分は人の肉を喰らう者である事。
それを隠して生きなければならない事。
そして何年目かの冬の夜に老人は死んだ。
雪の中に置き去りに残して旅を続けた。
涙など無かった。
始まりを知らぬから、自分が何者であるかも十分には理解できず。
始めは気の向くまま、自由に血を求め人を喰った。
そうして歩いているうちに。
自分の中には何もない事に気がついた。]