[男は変わり者と称される部類の人間で、人狼の力と存在に魅了されているようだった。
館での滞在中に語った人狼についての話しは、男を満たすのに十分だった。それだけの知識はすでにあった。
はじめの滞在は2日。次に3日、4日と日数は増えてゆき。信を得る為に、アーヴァインの好みそうな品を運んだ。男は一つ一つ興味深そうに目を輝かせていた。
何度目かの滞在時に、アーヴァインは奇妙な物を見せた。小瓶の中に黒い液体。
これは人狼になれる薬だと、男は言っていた。
長い説明を聞きながら瓶から漏れる匂いを嗅ぐと、それには微かに人狼の血が混ざっていた。
目の前で、アーヴァインはそれを飲んだ。
そして男は男が望んだように、人狼と―――――なりきれなかった。
瓶の中の血では足りなかったのか。
人の姿で狼の飢えを持ち、人の心で狼の本能に抗う、哀れな半端者と成り下がった。時折血を求めもがく様は滑稽に見えた。
それは好機だった。
飢えに苦しむ男に、自らを人狼と明かし。
男の代わりに血と肉を取って与えてやろうと、甘い言葉を囁いて。
傀儡を手に入れたのだ。]