……ん。
[影が動くのは、庭の先、家を取り巻く柵の向こう。
こちらを伺うようなその姿は、例の騒動の半年ほど後から、よく見かけるようになっていた。
……より正確に言うならば、父の死により帰郷して。
母を亡くしてから、ユーディットを雇い入れるまでの間もよく見かけてはいたのだが]
あいつはあいつで、何をしとるんだか……。
[幼い頃から知る、見知った相手のもう一人。
その行動の意味は、未だ理解及ばぬまま。
窓辺を離れ、再びピアノの前に座り、鍵盤の上に指を乗せる。
半年前の戦いで受けた傷の痕は、僅かにその動きをぎこちなくしてはいたけれど。
音を紡ぐに、差し障る事はなく。
一度目を閉じ、それから開いて。
旋律と共にもう一つ、音を紡いでゆく]