―回想―
[主が死んだと聞いたとき、年嵩の使用人頭はそれを信じなかった。
主が狼であったことなど認めようもなく。
その死体が獣の姿であるなら、これは主では無いと言い切った。
僅かの使用人の中、その狼を主として認めたのは、更に僅か。
たったのひとりに過ぎなかった]
…あのっ!
[別荘へと事情を説明に来た人間が帰途につくのを見て。
他の使用人の眼から外れ、女はその背中を追った]
何が、あったん……ですか。
[尋ねなければと、そう女は思った。
その人間の眼は、嘘をついているものには見えなかったし。
それに何より主が狼である――それに思い当たることもあった]