―いつか、メールを開くとき―
[どれだけここにいたことだろう。
相変わらず屋上が好きで、アズマはずっとそこにいた。
何やら噂になっていることも自覚している。たまに驚かせたり、あるいは誰かの悩みを聞いたり。
どうやら幽霊になってからの方が、人の役に立てたようだ。
思わずひとり笑ってしまう。
ポケットに手を伸ばす。
諏訪の第二ボタンだ。手のひらに乗せてころころといじる。
彼が卒業する時、屋上にこれを置いていってくれた。
呼びかけられたから、卒業おめでとう、と、返事をした。当然聞こえていなかったようだ。
改めて距離を感じた。でも、劣等感はなかった。
少し寂しかったけど、諏訪が生きていてくれることがうれしかった。
もう片方のポケットに手を伸ばし、携帯電話を手にした。
一時は読みたくて読みたくて仕方なかったが……。
今は焦る気持ちが無い。こころ穏やかにメールを開くことができる。
諏訪と、一之瀬の。]