―未来―
[部屋に入ると、そこはしんと静まり、綺麗に整えられていた。
本は古いものから順に並べられていて、特に状態の酷いものも纏められている。
この家が昔は汚かったのだと聞いても、信じられるものでもないだろう。
一文字一文字、
同じ文字を、同じ感覚で、ただ並べてゆくだけの仕事。
その仕事の最中に、新しい本の中、イラストなどどこにもないはずなのにページの文字の下に黄色い蒲公英が踊るのに、気付くこともあるだろう。
前の筆記者の痕跡は、ただそこにだけ。
(もしそれまでに人が入っていないのなら、残っていたパンが腐っていたかもしれないが。)
本と本棚と紙とペンと。
ただそれだけしか置かれていない、キッチンには食器が少し置かれているだけの部屋は、何も語ることは、なかった。]