「今から幾つかの昔話をしてやる。大人しく聞け」
[荷物を脇に寄せ、息子の正面に椅子を持ってくると座った。
もう成人しようかという息子に父親がする昔話。
睨みつけてくる父親の態度を見て息子の方も何かを感じたらしい。
膝の上に手を乗せてじっと聞く姿勢になった]
「一つ目は今から30年前、ある商人が洪水に出会った時の話だ」
[左腕の袖を捲し上げて、いつも巻いている包帯を解く。
その下にあるのは鈍い銀色の刺青と、大きな牙を穿たれた痕]
「そいつは南の小島を巡ってその村に立ち寄った」
[あの時の鈍い痛みが甦るかのよう。
その晩、親子の部屋はいつまでも灯りが消えないまま*だった*]