[家主無き自宅。片付けは数日かかり、祖父のものは粗方処分することに決め、残したのは一枚の写真だけだった。それはイレーネが産まれた時に写真屋を呼んで撮った写真。祖母がまだ生きていた頃のもの。産まれて二年後に祖母が死に、その五年後には両親が死んだ。そしてその七年後、祖父を、失った]
…………想い出だけは、持って行っても、良いよね?
[ここで過ごしたことを捨てるつもりは無い。この想い出は自分がこの村で過ごした証しでもあるから。最初村を出ようとした時には無かった郷愁が、心の中に宿っていた。残した一枚の写真は母親が遺した日記の、自分が産まれた頃のページに挟み、持って行く荷物へと入れる]
未来を信じて。
幸せを見つけて。
[それはユリアンから伝えられた彼らからの最期の言葉。忘れぬよに、一冊のノートの一ページ目に書き記した。そのノートはこれから見てくるものを書き記すためのもの。母親に倣う、自分の日記]
───大丈夫。
フォルと一緒なら、きっと────。
[呟いて、ノートをぎゅっと抱き締めた。傍に居た猫が身を擦り寄せて来る。それを撫で、ノートを荷物へと入れると、荷物入れの口を閉じた]