―何処か―
[椅子に座って、老人は居間から聞こえてくる話し声を聞いていた。小さな子の、泣く声。しばらくすると、それは治まり、やがて静寂が訪れる。
ほの暗い部屋の中、書棚にある一枚の写真。古惚けた、家族の肖像。
今はもういない、二人を思い老人は目を閉じた。
病を持つわけではなかったが、先はもう長くないと悟って、けれど、写真に写る少女のことが、いつまでも後悔として心の中に燻っている]
……。
[別れた時の寂しそうな、顔。例え治ったのだとしても、その時に自分たちがいるのだろうかという不安。
施設に預けて1年後、妻は同じ病で没した。キャリアになり、発病するまで約一年。発病から死に至るまではただの二日。
最後まで、娘のことを案じていた母の笑顔が、その写真にはあった]