─追憶・訪れし契機─
……んの、やろ……もう一回!
[ふもとの村の酒場に響くのは、苛立ちを帯びた声。
十六の夏。伯父の使いでふもとの村を訪れた時。
あまり見かけない、カード賭博をする三人組を見かけたのが運の尽きか、それとも運の始まりか。
気づかぬ内にカモられて、自分の財布は空に近く。
後は、使いのための金に手をつけなければ、という状況に追い込まれていた。
周囲は係わり合いになるのを恐れてか、それとも面白がってか口を出す事はなく。
状況は、最悪に近かった、けれど]
『……ちょっと、待ちな』
[最後の勝負に出ようとする直前、割り込んだのは低い声。
覚えのないそれに振り返った先にあったのは、どこか面白そうにこちらを見下ろす隻眼だった]