〔やがて、手が止まり、音は止む。
窓辺に佇んでいた鴉が黒の翼を羽ばたかせ、空に向かって、鳴いた。〕
届くかな。
〔人差し指で、白い鍵盤を軽く押す。
緩やかに開いた眼を外へと転じて、青年は呟いた。
夜天はなく、明けた空が、そこには在る。
地面を覆い尽くす白にもよく似て、真珠のようでもあった。
その瞳にひかりは宿らず、現を映しはしないけれど。〕
今度は、いつ来るんだか。
森にも、逢いに行かないとね。
……そろそろ、怒られそうだ。
〔鴉に語りかけるように、独りごちるように、青年は言う。
小さく、笑った。
白から黒を辿り、蓋に手をかける。〕