[温かな舌で胸を舐めると、少しだけ熱が移った。
そろり、そろりと這う箇所が増えれば、舌の方が冷たくなった。
冷たいけれど柔らかな肉。
微かに緩く甘い匂いは、新鮮さが損なわれた事を告げている。
それでも、構うことなく胸の中央で舌を止めると、牙を立てた。
昼に同胞を捥ぎ、幼馴染の血を啜り
正直餓えも腹も十分に満たされていたが
それでもなお、夫だった人の体を、一晩かけて余す所なく貪った。
その瞳のように赤い心臓も
病に冒された苦い肺も、空になっていた胃も
骨にこびり付いた肉の欠片も、舌と牙で削ぎ
薄い肉も、白い皮も、腹がくちくなろうと喰らい続け―――
愛した人の真ん中は、からっぽになってしまった。
本当は、その髪の一房までも喰らってしまいたかったけれど……]