[記憶に景色がつくのは10の時。何かから逃げ、雪降り積もった森の中をさ迷っていたのが始まり。
恐怖に突き動かされ、黒から逃げ出し、白い世界を闇雲に逃げ回っていた。
―――気づいたら、自分を追いかけていた何かは、美しい銀色の何かに喰われていた。
初め、それが何なのか分からなかったのは、それが獣でも人でもない、化け物だったからだ。
だのにそれを前に、動く事ができなかった。
満月の月明かりに、銀が煌めき、赤が唯一鮮やかに周辺に花咲くように散る。銀色した化け物は、無慈悲に無遠慮に、自分にとって恐怖の一欠片だった何かをほふってゆく。
目を、心を、魂まで奪われて、幻かとも思った。
彼らが立ち去った後、開いた赤いそれに近づくと、銀色の毛が数本、雪に紛れるように落ちていた。
それを握り締め、夢で無いと知りうると―――。
自分も、銀色が食べていた何かを食べていた。
少しも美味いと思えなかった。
人を喰らう己が様を、ワラいながら見ていたのは黒衣の男だった。]