[墓前に立ち、供えるのは小さな酒瓶と煙草の箱。
他にも並ぶ墓を見て、それから、周囲を見回して]
『……ふぅん……いーいとこじゃねぇの。
ここが……お前の、守りたかった場所、か』
[ぼそり、と呟く。
気まぐれから、カードとダイスを教えた少年。
その時にはなかった翳りを引き摺り、裏通りで蹲っていた彼を見つけた時の驚きは、隻眼の賭博師の中では忘れられぬもの。
行き場がなくなった、帰れなくなった、と。
消え入りそうに紡ぐ彼から、時間をかけて事情を聞きだした。
人ならざる身、自らの力。
それが、故郷に害なす事への恐れ。
「大切」だからこそ、戻れない、と。
語られたそれに、思う所は幾つかあったから。
舎弟として面倒を見る事に決めたのは、遠い昔の事のように思えていた]