……ねえ、お婆。
[老婆は、変わらなかった。
僕が帰って来ても、行く前と、何も変わらなかった]
僕は、僕に生まれて来なけりゃよかった。
母さんが欲しいのもお婆が欲しいのも、女の子だった。
違ったから、村から引き離されて町に住んで、
それでも、失ってばかりで何も手に入らなかった。
[彼女の目には、何が、視えているのだろう。
彼女の耳には、何が、聴こえているのだろう]
戻って来てからも、同じだ。
失うどころじゃ、ない。
僕は、奪っちゃいけないものを、奪った。
[自分の手を見る。
赤が焼きついている。今も、消えない]