[そっと胸に宛がう手。リヒトの姿に思い出すこと。死ぬ時に覚悟したこと。――……彼に後を託した時点で、例えば、もし、生の世界で妻が子と結ぶ3点の内の一つに彼を選んでも、受け入れるつもりだった。自分達の子を娶っても佳いと謂ってはいたものの、年齢と積み重ねたものを考えれば……―――。それでも、子だけのことしか謂わなかったのは、複雑な男心故に。実際の妻とリヒトの間にある感情の細やかな種類は、判っているのかいないのか。どちらにしたとて、軋む何かは手宛がう胸の下に存在したまま。]