[零れた涙を拭ってくれる、手の暖かさが嬉しかった。
背を撫でてくれる手の優しさが暖かかった。例えまがい物でも。
ふっと消えていってしまわないかと、繋ぎとめておきたくて
だからどうにか、礼を言おうと震える唇を開きかけたが。]
『!!』
[紡がれたコエに、びくりと身を強張らせることで反応を返せば
自身がコエ聞こえる者である事は知られるだろうか。
夫と同胞以外に始めて聞くコエに、震えるコエで恐る恐る返した。]
『―――聞こえる、わ。届いてる……。
リヒトの……お兄さん……?』
[涙溢れる顔のまま、それでも意外そうな顔をしたのは
生前、リヒトから兄弟の話など聞いたことがなかったから。
だがそれが嘘ではないことは、その容姿と届くコエが物語っている。
同じ顔、同じコエ、同じ匂いが。]