[木に頭を預けつつ、懐から取り出したのはびっしりと付箋の付けられた一冊の分厚い手帳。
それをぱらぱらと開くと、そこにあるのは各ページに貼られた写真とびっしりと書き込まれた文章。
そこには、名前・素性・使用武器や人物評価までがびっしりと書き込まれている。
彼女の特別性の眼はすべてを見通す代わりに、個人というものを認識する能力を欠落させたのか、彼女は人の顔と名前を覚えることが出来ない。
無論、こういう稼業をする上で、いちいちはじめましてで通るわけがない。そうして、つけ始めたこの手帳。その表紙に書かれた題名は『終わりの始まり』。
だから、その遥か昔に殺してしまった両親のことなど彼女はなにひとつ覚えていない。
だが、悲しみなどなく。顔も分からぬ者のことをどう悲しめというのか。
そして、その手帳の新しい部分。そこに貼られたここで出会った面々の写真の下に、メモを追記していく。すべては一夜の夢。消えないうちに書き留めなければすべては泡と消えていく。]