─ 放浪の一幕 ─[見上げた空には、欠けたることなき望月の。清かな光は吾身に力を与え、逃走の助けとなるものだが。それを映す金の眸は、哀の色を宿していた]『………』[吹き抜ける風に身を晒しながら、届く歌声>>1988に耳を澄ます。銀盆に影と浮かぶのは、白い世界で生きる娘の姿。肩に淡い朱花の蕾をつけ微笑んでいる。その笑顔を幻としないために。誰よりも愛しい娘の手を離し。何処よりも居心地の良かった地を離れて。季節はもう幾度巡ったか――]