――いつか遠い未来――
[子狼が走り抜ける。その後を灰銀の母が見守りながらついて歩いた。
母の手には、古くなった白兎のお人形。
狩りの時には必ず連れて行くとぐずる娘が
その狩りの間は母に預けていたそれは、もう随分汚れてはいたが、
繕い足された端々が大切にされている事を物語っていた。
子を産んだ当初、ルークスに「リヒトの子だったのか?」と聞かれたほど
見事な漆黒の毛並みを持って産まれた娘は、
夫が望んだとおり駆け回り、昼の光にも夜の闇に愛されて育まれた。
その表情とルビーの瞳には間違いなく夫の面差しがあるのに、
髪色だけは母狼の父の黒を継いだ娘は、
獣の姿になれば確かにかつての同胞に似ていたか。]