[弟の代わりに「ありがとう」と、告げる同じ顔の人に、微かに笑んだ。
何かと世話と面倒をかけてしまっている同胞の兄は、黒髪の娘に酷く甘く
おかげで娘は黒髪の獣を、無邪気に父と呼んでいた。
違うと言っても、おそらく理解出来ないだろうし
細かな経緯は尚の事、語るには早いだろう。
娘と、そして呼ばせている本人が良いならそれでいいと、そのままにしておいた
どこかであの人が拗ねてやしないか、それだけが少し気がかりだったが。
娘が笑ってくれるなら、きっと許してくれるかしらとも思う。
それにどちらも、かつて自分が失った穴を埋めてくれる大切なもので。
どちらも、離す事は出来ずにいた。
あの時とはまた違う、静かな幸せの中に今は在る。]