―いつかの話―
一匹の猫がそこに住んで、だいぶ時のたった頃。猫の耳はかすかに震え、いつもとちがう音を聞き取りました。小鳥たちのさえずりはどこか緊張を孕み、草の香りを運ぶ風に鉄のようなものが混じっているよう。感じとった時、水より深い青の目が見開かれ、猫は小屋の中、床の上に降り立ちました。
一瞬の空白の後、扉は開いて、薄い黄金の色をした髪がそこから外へと出て行きます。最後まで扉に残った、群青色の腕輪をした手も消え、その小屋はふたたび静寂を取り戻しました。
森は広く、少年はそれでも迷うことなく走ります。やがて見付けたのは、優しい川の音。
白金の色をした傷付いた獣を、彼はその時はじめて目にしたのでした。