>>2806続き
彼女を助けたのは人の姿でしたけれど、彼女は目をさましませんでした。それは彼が森のにおいだったからでしょうか、それとも獣であるとわかったからでしょうか。答えは定かではありませんが、それは後から語る必要などないことでしょう。
小さな家の、ベッドに運んで、そこに寝かせました。獣であった体は人のようなものに変わり、自分と同じだと知ったからでしょう、躊躇いはありませんでした。
痛そうな足が見えたから、水にひたして絞った布を、そっとそこにあてます。せめてすこしでも、痛いのがなくなると良いと願いながらあてた手は、それを叶えたでしょうか。
さすがに気付いた彼女は、出来ることなら逃げ出そうとしたのでしょう。しかし優しい花の色をした目に浮かんだそれを、彼は正しくは感じとれませんでした。
「だいじょうぶ。痛いなら、無理、しないで」
彼女がふたたび意識を失った後、新しい布をもういちど濡らして、それを彼女の額にのせました。
辛そうだったら水をくんで、飲ませて、そんなことをしていたら……気にしていたのに、いつしか、彼は疲れてねむってしまっていたのでした。