―――――人間界、とある街の街角―――――
[時刻はやや遡る。
ミハエルは、洋菓子を扱う店に居た。
陳列された品々の中からミハエルが選び出したのは、焼きたてのマフィンだった。如何にも暖かげな湯気を立てているそれを食べるのは、勿論ミハエル自身では無い。100年ばかり不思議な同行者と旅をし、100年前には考えることもしなかったような変化を受け入れ過ごしてきたが、こと食に関してミハエルの嗜好自体は然程変化していない。
甘い物は苦手である。そもそも食事自体を殆ど必要とせず、食べるものといっても本性である狼の嗜好が勝る。まして、”氷破”に属する精霊であるミハエルは、暖かいものを率先して食べようとはしない。
同行者のための物だった。]