〜狼少女の回想、その三〜
…拾われてから五年が過ぎた頃、躰を狼に変える事を覚えた。
人の物ではない手と足は、森を駆けるのに便利だった。
流石に最初は養父に相談しようかとも思ったが、
十歳にもなれば多少の知識は童話や村人の会話から得られる。
自身が人では無いと学び、排斥されると知ったからこそ養父にも体の変化は隠した。
数日に一度の山での採取が、狼として駆けまわれる希少な時間となった。
…不思議と、食人の欲求は湧いてこなかった。
特に飢えていないからだろうと、一人で納得した。
…少女は、無知であった。己に関して。人狼に関して。
故に、少女はこの館へと来た。己がどうなるかなど、知りもせずに。