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[牧師の言葉に、ヘンリエッタはしかめ面でこくこくと頷く。]
お酒も煙草も嫌いよ。
このお菓子の方がずっとおいしいわ。
[さりげなく、2杯目のチョコームースをよそいはじめた。]
[ 元々目立つ事は得意では無い為に、皆の多様な反応と注目する様子に思わず其の場から逃出したくなったが危うく踏み留まる。いきなり逃走するのも奇妙極まり無いが、其の上こけようものならば恥に違いない。]
……どうも有難う御座います。貴女程ではないですが。
[ 普段通りの微笑を浮かべながらローズマリーの褒め言葉にはそう答えはするものの、数瞬の間沈黙したメイには半眼になり僅か顔を俯かせ額に右の人差指を当て、左手は右肘を支え腕を組む。]
如何したも、斯うしたも。
雨の所為で着替えが全滅したんだから仕方が無いだろう。
[ 好きで着ているんじゃないと云いたげに溜息を吐いた。]
優しいわ。
……ありがとう。
[社交辞令だとわかっていても、その言葉が嬉しくて。
わたしは、いつか、いつか。彼のかなしみも癒したいと思った。
それから、ハーヴェイの言葉を聞けば、首を横に振る。]
大変だったのね。でも、とても懐かしい気がする。
……本当、とてもよく似合っているわ。
[彼の母親を思い出す。]
…おや、着替えが。
[それは災難でしたね、とハーヴェイに声をかけ。]
サイズが合いそうなら、僕のを持ってこさせましょうか?
でもまぁ、その姿もお似合いですよ。
義兄の蔵書に翻訳モノの推理小説なんかもあったでしょ。
…それに出ていた挿絵の方に良く似ています。
[半ば予想通りの反応に、楽しげに笑いつつ]
ま、着る物ナシじゃ、困るもんね。
まさか、何にも着ないでいるわけにもいかないし。
[さらり、と返しつつ。ムースを一匙、口に運び]
でも、いいじゃない。似合ってるし。
[どうせ離れるのだから、と好意を寄せられても応じないようにして、今までやってきた。
彼女たちが望むのは安定した暮らしで、俺の旅の終わりを望む事だったから。
代わりにその欲を満たす物は、場末にある娼館。
なんの柵も後腐れもなく相手をしてくれる女。
もとよりそういう欲は薄く、故にそれで事足りた]
売っただの買っただの言ったら…嫌われるだろうな。
[だから、言えない。
秘密の一つ]
[程なくして、使用人が銀髪の男性の前に番茶を運ぶ。
それを横目で見ながら、耳に入ったハーヴェイの「仕方ない」との言葉に]
…申し訳ございません。
替えのものをご用意させて頂きます。
[青年の横を擦り抜け、着替えを*探しに行く*]
[ハーヴェイの言葉には少し同情的な気持ちを浮かべ]
あの雨で、か?
災難だったな。
[旅をしていればそれは日常、しかし彼には厳しいだろうか、とふと思う。
そして礼の言葉を口にするローズには笑って]
礼を言われる事はしていない、けどな。
[優しいのではなく、自分が嫌われたくないのだ、とは言えずに]
[ ローズマリーの台詞を聞けば、苦い表情で首を傾けた。]
……明日も帰れそうにありませんね、此の様子だと。
[ 然し次いだ言葉に彼女から視線は逸らされ火の揺れる暖炉へと向けられる。其れは幾度か見せたぎこちなさと似たものだったが、一瞬の事で。]
そうですか。
[ 微笑と共に、そう、端的に。]
…あんな目?
[その言葉に気になりはしたが、あまり訊くのも悪いかと]
まぁ、いろいろあったんだろうな、そこまで重症なんじゃ…。
[と一人で呟く]
[ コーネリアスの申し出には逡巡の様子を見せるも、流石にずっと浴衣姿は辛いものがあり、有り難くは思う――も、着替えを探しに行くネリーに瞬いて、済まない事を云ってしまったかと若干申し訳無い心地になる。]
ああ、推理小説ですか……。
確かに、有りましたね。矢張り東洋の、でしたか。
[ す、と黒の瞳が細められた。]
[牧師の甘いものばかり、の言葉に少しだけ唇を尖らせた。]
今まで甘いものなんて滅多に食べれなかったもの。
今までの分、少しばかり多く食べたって罰は当たらないと思うわ。
[口答えしたものの、牧師の空笑いにつられて笑う。]
なあんだ。
牧師さんだって好き嫌いあるんじゃない。
[くすくすと、年相応の素の笑顔で、ヘンリエッタはムースを口に運んだ。]
[……やはり、似過ぎていて非常に怖い。
彼女に視線を向ける事でさえかなり勇気がいる。
『幽霊ではない』と頭では分かっているのだが。]
あなたの言葉が、嬉しかったのだもの。
お礼位、言わせてくださいな。
[ナサニエルにわたしはそう言う。
優しい言葉に、顔は知らずにほころんでしまう。それを止めようなんて思えなかったけれど。
ハーヴェイの一瞬のぎこちなさには、気づかぬふりをしよう。
彼はきっと、色々あっただろうから。]
そうね、雨も酷いし。神鳴りも、すごいわ。まるで、何かに怒ってるみたい。
……怖い、ものね。
[わたしを見る牧師さまが、すぐに視線をそらしている。
似ている、というのがやはり問題なのかしら。
彼を見て、小さく微笑んでみる。]
[ 楽しげなメイに返す表情が些か不機嫌な様子なのも、予想通りだろうか。其の様な事はハーヴェイには考え付きもしないが。]
流石にそう云った趣味は無い。
[ メイの傍、空いていた椅子の一つを引き腰掛ければ頬杖を突く。似合うという言葉は少々意外だったのか、瞳を一度ゆっくりと瞬かせた。]
……其れはどうも。
[ 然し機嫌は余り好くなっていないらしく、]
それにしても、人が苦労している間に暢気にしてるんだからなぁ。
[ムースを口に運ぶのを横目に見遣りながら若干拗ねた様に云う。とは云えど、雨に降られたのは半ば自業自得な訳だが。]
[浴衣の青年の、帰れそうにないという言葉に窓を見やる。
外は真っ暗で何も見えないが、窓ガラスに打ち付けて流れる雨粒は見える。
いつの間にか、この雨音になれてしまっていたことに気づいた。]
……ああ、すみませんすみません。
どうしても初対面のイメージが刷り込まれているようで。
お気に触られました?
[ルーサーはローズマリーの様子を見ることにした。今度は視線を逸らさずに。]
[ メイやトビーに対する時と他者に対する態度の変わりようは或る意味では天賦の才と云えようか、若しくは母譲りのものか。兎も角、ナサニエルへと向ける表情は苦笑ではありながらも一転して柔らかい。]
ええ、災難でした。
……雨だけならば未だマシでしたが。
[ つい零れた言葉に口許を軽く手で押さえ、]
灯りも無かったですからね。
[そう付け加えればローズマリーに同意する様に頷いて、]
怒るような何かが、あったのでしょうかね。
或いは、此れから――……いえ、何でもありません。
と、言うか。
そういう趣味あったら色んな意味で大変だから。
[冗談めかした口調で言いつつ。
拗ねたような様子に気づけば、くすり、と笑んで]
褒めてるんだから、素直に聞けばいいのに。
暢気っていうか……甘い物食べてる時くらい、悩みは忘れないと。
美味しいものも美味しくなくなるからね。
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