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[扉の開閉と、人の気配。
それから、微かな音に気づいて振り返れば、鮮やかな赤毛の少女の姿が目に入る]
や、こんばんは。
[にこ、と笑いかけつつ。ここにいたら邪魔だな、と気づいてテーブルの方へと移動し。
ウェンディの問いにはうん、と頷く]
どうしてもね、ピアノに夢中になると、食べるの忘れちゃうから。
思い出した時、ちゃんと食べないとならないんだ。
[冗談めかして言いつつ、席につく]
[どうにも、そのまま眠ってしまったようで、窓を叩く雨音に目を開ける。]
…おや、これはお見苦しいところを。
[気まずそうな笑み]
[ため息をつくナサニエルの様子に、やや、首を傾げて]
ナサさん……?
何か……あったの?
[何となく、問うのはためらわれたものの。
大きなため息の理由として思い当たるものは先ほどの叫び声しか思い当たらず、そっと問いかけて]
[ 珍しく慌てた様子のルーサーに首を傾げるも、問い掛けられれば苦笑を浮かべる。]
ああ、帰ろうとしたら雨に掴まりまして。
……ルーサーさんこそ、如何されたんですか?
[ 目敏く……基、鼻敏く煙の臭いに気付けば目を眇め、]
何やら、妙な臭いもしますが。
[そう云い遣りつつも何時までも此の儘では居られないと、釦を外して上着を脱ぐ。余りの濡れように、傍に在った洗面台で思い切り絞れば滴り落ちる水。]
あ……こんばんは。
[金の髪の少女の笑みに、少しだけ気後れして反応が遅れる。
その間に、少女は食事を終了にしてしまったようだ。
食事の為に身につけた布を取り払う少女の、優雅な動きをただぼおっと見つめる。
年のころは自分と大して変わらないだろう。けれど、今まで自分が接して来た人間とは何か違うものを、ヘンリエッタは彼女に感じていた。
この子はいったい、何者なんだろう?
ただ気になって、少女を見つめた。]
[続けて入ってくるナサニエルにも軽く会釈をして。]
[メイの言葉には、僅かに頬を緩めて]
ピアノ…弾けるのね。羨ましいな。
でも、何かに夢中になるとつい食事を忘れてしまう気持ち、よく解るわ。
私も…そういったタイプだから。
[席に着く様を見つめながら、ティーカップを傾け――]
[ソファで目を覚ましたコーネリアスには、静かな笑みを湛え]
お気になさらずに。心地良さそうに眠っていたのを、逆に邪魔して申し訳ないくらいですわ?
[悪戯っぽい口調を。]
…………はっはっはっ。
気のせいですよ。
私が煙草を吸わないのはご存知でしょう?
[手早く衣服を脱いでいく。が、手袋はまだ嵌めたまま。
煙臭いのは気のせいではない。
正確に言うと、煙と火薬が混じったような臭いというべきか。]
[ようやく目を覚ました様子のコーネリアスに会釈をして。
メイの問いかけは今の溜息の事だろうと思い当たり]
あ、あぁ、昨夜の怪我人の様子を見に行ってな…。
怪我よりも…なんてーの?精神的な傷の方が大きいみたいでさ。
俺を見て怯えるんだよ…まったく何があったかしらねーけど、酷い事をする奴もいたもんだよなぁ。
[そういって再び溜息。
獣か、と問われた事は伏せて。
余計な心配はさせたくは無かったから]
[ツインテールの少女の声に、少女は親しみを込めた笑みを浮かべて席を促す]
ここの食事は美味しいわね。さぁ、あなたもどうぞ?
[見つめられる視線には悪意を感じない為、そのまま滑り落ちるように受け流す。]
そう言えば…私、あなたの名前を聞いてなかったんだけど…。良かったら教えてくれるかしら?
[彼女にだけ、僅かに砕けた表情を浮かべるのは、やはり外見の年齢が等しいという認識の所為なのだろうか]
---こんばんは。
[こちらを振り向いたメイの声に、知らず少女を凝視していた視線を外した。
メイの後について、食事の席に着く。
運ばれてくる暖かな食事に、知らず目を輝かせた。
いきおい良くパンに手をのばした時、青い髪の青年が、広間に入って来た。]
……ああ、ところでハーヴェイ君。
トビー君、まだ幽霊がいるかどうかびくびくしてたりします?
[逡巡した後、手袋も脱ぐ。
何か嵌めていた気もするが、左手はすぐ後ろに引っ込められたのでそれが何なのかはわからない。]
―広間―
[広間の戸を開ける。そこにはいつもながら人が多くいた。
暖かい空間に少しだけ安心する。
一礼し、いつものように扉の傍に控えた]
と、いうか、ボクの場合、ピアノ弾くくらいしか取り得がないとも言うんだけど。
……ここにお使いに来るのも、半分くらいはピアノが目当てだし、ね。
[羨ましいな、という言葉に笑みを交えて返しつつ、食事を始める。
料理の温かさに、僅かな緊張を緩めてくれるような心地になりつつ]
飲みすぎちゃったんですか?
ダメですよー、限度考えないと。
[薄く笑うコーネリアスに、冗談めかした言葉を返し。
嫌な雨、という表現には、小さくそうですね、とだけ]
…そうですか。一体なにがあったんでしょうね、…あんな酷いことを…。
[まるでよってたかって殴られたかのような昨日の傷を思いだし。]
そうですか? ……鼻には些か自信があるんですがね。
[ 僅かに悪戯っぽい笑みを浮かべてそう返すも、深く追求する心算は無いらしく、其れ以上言葉は加えずに手早く入浴の準備を整える。]
……ああ。
確か……、美味しいものが美味しく食べられなくなるから、でしたっけ。
[ 酒は嗜む――というか蟒蛇にも関わらず煙草を吸わないのは意外だったが、理由を聞けば納得した覚えがある。]
じゃあ、さっきの……やっぱり、あの人の声、なんだ。
[ナサニエルの説明に、雨音すら凌駕した叫び声を思い返しつつ、僅かに眉を寄せる]
精神的……かぁ。
それじゃ、話せるようになるまではしばらくかかりそうだね……。
トビー、ですか?
[ 牧師の口から其の名が出れば一瞬驚いた表情になるも、直ぐに苦笑に変わる。]
……みたいですね。
今日もまた、コーネリアスさんを幽霊と間違えたようで。
[ 手袋を脱ぐのに躊躇しているのは解ったが、其れにも触れはしないでおく。然し、引っ込める仕草には瞬時眼つきが鋭くなりはしたか。]
実はね。あの幽霊騒ぎの時、私は一つだけ嘘を吐いたのですよ。
本当は戒律で禁じられているのですがね。
汝、偽る事なかれ。とね。
[ははは、と笑う。]
……『いる』んですよね。この屋敷。
なかなか『出て』は来ないのですが。
[席を勧めてくれた金の髪の少女に、はにかんだように笑みを返す。
少女の笑顔が、少しだけ親しいものに感じられたのは気のせいかも知れない。
気のせいだとしても、彼女の笑顔はヘンリエッタの心を少しだけ浮き立たせた。]
私はヘンリエッタ。
……あなたは?
[昨日、彼女が名乗っていたのをヘンリエッタはろくに聞いていなかった。
あの時は、自分のことに精一杯でだったから。]
[聞こえてくるナサニエルの話に耳を傾けるも、少女には昨日目にした怪我人に対する同情の言葉など浮かんでくる余裕すらなく――]
大丈夫…きっと…違うことよ…。旅人の怪我なんて…よく聞く話――
[まるで自分に言い聞かせるように小さく呟き――]
…まともに話が出来る状態じゃなかったな。
何だか意味不明なことを呟くだけで、さ。
せめて名前だけでも聞ければ、って思ったんだけどね。
[あの様子では名前さえ忘れてしまっているのかも知れないと]
[ 笑いながら告げられた言葉に、僅か眉を顰める。]
……はい? 何が。
[ 声は些か素っ頓狂になってしまったろうか。云いながら取り敢えずはと浴場の扉を開ければ、一気に白い湯気が辺りに漂う。]
―そして太陽の高い時間―
何があったのかしら。叫び声だわ。
……ん、でもどうせ誰か出て行くでしょう。
[呟きながら、思い返す。]
あなたのせいではないわよ、アーヴァインさん。
あなたと昔付き合っていた女性が亡くなったのも、奥方様が亡くなったのも。
運が悪かっただけだわ。
……treaty。
わたしとあなたの間には、それだけよ。そしてそれはまだ、なのね。
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