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―二階廊下―
お代はどうしましょうか?
今は持ち合わせが余り無いんですけど。
[説明の言葉一つ一つに頷きを。
差し出された小箱の中を受け取り、中身を確認して]
導眠剤ですか。
無理にでも休ませたい相手がいたら、食事か何かに仕込むかもしれません。
[冗談に似た言葉もやはり変わらない表情のまま。
受け取った小箱を大切そうに、そっと胸に抱いた]
そうか?
イヴァンの言葉を信じておこうか。
[どこか調子が悪そうにしているように感じたが、
それは心の内にしまっておいた。
ライヒアルトの返答にそちらのほうを見やり]
それじゃあ、人狼の見分け方とか、何か対処方法?
身を守ったりとかな。
そういうのについてなにか知らないか?
だいじょうぶ。
[声をかけてきた金髪の青年の顔を、子供はじっと見つめて答えた]
だいじょうぶ?
[そして、同じ言葉を彼に向ける]
…本当に大丈夫か?
[付き合いが長いせいか、微かに感じとれる違和感に、眉を潜める。]
マテウスが言うように、辛いなら薬は早めに飲んだ方が良い。
進展、か。私らも、さっき着たばかりだからな。
相変わらず出られそうにないのが分かってるくらいだ。
[そうイヴァンに言い、茶を入れ差し出す。
どこか退屈そうなベアトリーチェには、やや苦笑してそっと金の髪を撫でた。]
あまり楽しい話でなくてすまないな。
猫も退屈しているようだ。
[と、先ほど置いたミルクをすっかり飲み干したヴィンテをみやり。]
[何処まで答えたものかと逡巡しつつも]
今回の騒ぎの事で。
少し、神父さまに…
お聞きしたいことがあったものですから。
後、ついでに、忘れ物のお願いを。
[読んでいない手紙。
それと、白い手袋を取り出す]
アーベル先生は、…ご存知ですか。
人狼について。
[封筒を脇に挟み、左手に嵌める、
途中で動きが止まった]
[唐突に口を差し挟む。どこか苦しげな表情で]
それなんですけどね……マテウスの兄貴。
俺、人狼を見分けられる、かもしれません。
だがそれは俺の勘違いで、俺の頭が狂ってしまっただけ、かもしれない。
─二階自室傍廊下─
代金は要らないよ、俺からの寄付ってことで。
[微笑みながらゆるりと首を横に振る]
無理してそうな奴が居るなら、そうした方が良いかもしれないな。
言葉で言って勝てるならともかく、そうじゃないならそれも手だ。
[冗談のようなゲルダの言葉尻に乗って楽しげに言った]
[小箱を胸に抱く様子を見やってから]
足りなくなったらいつでも言ってよ。
と言ってもそれが無くなるほど使うことになるかは分からないけど。
ああそうだ、代金。
飯作ってもらえるとありがたいんだけど?
[ふと思い出したように言って]
[おねだりするように人懐っこい笑みを浮かべて首を傾げた]
[小箱に落とした視線を上げたのは、良く知る声が耳に入ったから]
エーリッヒにエーファ。
おはよう?
[抑揚の乏しい声は、とおりが悪い。
聞き取れるかは分からないが、挨拶を]
[目覚めたイヴァンには、軽く視線を向けて。
それから、マテウスの問いに、改めてそちらを見る。
暗き翠には、微か、陰りの色彩]
……見分ける術は、ある。
生ける者を見極める力を帯びしものが、その力を正しく用いたなら、見出す事は叶うはずだ。
[もう一つの術には、触れなかった。
死せる者を見定める者。
御霊に宿る影を視る力。
死が絡むそれは、今は口に出すのは躊躇われ]
身を守る、の方は。
そういった力を持つ者もいる、という事は知っている。
だが、それがどこまで通用するかまでは、わからん。
ん?
[ゲルダの声でその存在に気付き]
お、エーリ君にエーファも居たのか。
[よー、と声をかける]
[ゲルダよりは声も大きく、通ることだろうか]
[ライヒアルトの話を聞きながらイヴァンの言葉を聴き]
つまりなんだ、
その見分ける術っていうのがあってイヴァンがもっていると?
[イヴァンとライヒアルトを交互に見やり]
力、特別な力がやっぱり必要な相手なのかね?
[自分の手を見てつぶやく]
なるほどなぁ…。
[そして再度視線はイヴァンとライヒアルトの方へ向ける]
ああ、成程。
[白い手袋][手紙]
[眼を遣る]
え?
[動きを止め][視線は動く]
…そうだな。
『人に化ける』だとか、『悪い子を食べる』だとか、…御伽話なら、よく聞かされたけど。
それ以上は分からないね。
[記憶を辿るように][左上を見]
[声は平静に聞こえたか]
そうか。良かったね。
[薄く微笑む。少しだけ心ここにあらずで]
だいじょうぶ、て、俺?
[疑問系で返された言葉に目を瞬く]
ああ、俺も大丈夫。
なんともないよ。
[そこに届く声。聞き取りにくい声もどうにか拾えて。
顔を上げてゲルダとゼルギウスの姿を認める]
ああ、おはよう、なのか。
[どこか精彩を欠いている声で応え、軽く手を上げた]
[ナターリエの言葉に猫と遊ぶヴェアトリーチェの姿]
たしかにつまらない話を聞いててもあれか。
気晴らしになにかして遊ぶか?
[笑いかけてヴェアトリーチェの頭を撫でた]
[ベアトリーチェの膝の上に乗せられた猫は。
主の緊迫も知らぬように、ごろごろと呑気に喉を鳴らしていた。
長い尻尾がゆらり、揺れて]
ねー…
ねーこねーこねこにゃんこの子ー
ふかふか お腹の 元気な子ー
[ほんの一瞬、調子はずれの歌が止めて。]
[でもすぐに、何も無かったかのようになでくりを再開。]
俺のお袋は……どこかから流れてきた女だというのは昔から村にいた奴は知ってると思います。
ちょいと頭のねじがゆるめでぼんやりした女だ、そう思われていたと思います。
お袋がどこから来たのか詳しいことは知らないけれど……お袋の言葉によれば、「あたしは期待はずれだったから捨てられたの」と。
[そこで一度言葉を切り、ナターリエの差し出してくれた茶を一口飲んだ]
―二階廊下―
寄付は流石に。
[遠慮するような仕種を見せるも、表情は変わらず。
ゼルギウスの楽しげな響きの言葉に深く頷く辺り、冗談では済まされないのかもしれない]
無くなる前に、早く出られると良いですよね。
人狼なんて、誤解だったって。
[翠玉は廊下の窓の先、はらはら落ちる雪の更に先、村の方角を眺め遣る]
…食事で良いんですか?
今日はアイスバイン…塩漬け豚すね肉の煮込みにしようかと。
リクエストがあるならそれを作りますし。
[それで良いか尋ねるように首を傾げた]
おはようってことは、エーファは起きたばかりか。
具合は…大丈夫そうだな。
[昨日一人で歩き回れるくらいになっているのは確認していたが]
[その後また崩さないとは限らないために内心心配していた]
[けれどその兆候も見えないようなので安堵の色を示す]
んー?
エーリ君も寝起きかい?
その割にはなんだかだるそうに見えるけど。
[エーリッヒの様子を見て少し首を傾げた]
……あんたが。
見極める力の、主?
[イヴァンの告白に、暗き翠がやや、細められる]
奴らが人の姿を解いているのであれば、一目瞭然だがな。
潜むモノを見出すには、相応の力が必要となるだろうさ。
……教会の口伝に準えるならば、『神より与えられし力』とでもなるんだろうが。
[マテウスの呟きに返す言葉は、淡々と。
声音には、冷たさすら滲んで]
ん?
傭兵さん、何するの?
[わたしの声が弾む。我ながらゲンキンな対応かな、って思う。]
[あからさまに退屈そうにして見せて、これだもの。]
[…ちょっと子供っぽ過ぎたかな?]
です、よね。
…御伽噺上の存在に過ぎない。
私は教会から、その存在の悪を学んでいましたが、それでもやはり、神の時代の話に過ぎないのでは、と。そう思っていました。
[巻いた包帯の内より覗く朱。
――昨日よりも、広がっている]
けれど、実在するとしたら。
どうなさいますか。
月夜の晩に目覚め、人を喰らう化け物が、居たら。
[手袋を引いて、覆った。封筒が滑り落ちる]
「使える子たちはね。狼を捜す道具にされるために育てられるの。でもね。力が強すぎると狼と共鳴してしまうのよ。狼を助ける者になってしまうの」
お袋はああいう女だったから。
俺は本気で受けとっちゃいなかった。
誰かに冗談を吹き込まれたのか、ただの妄想だと思っていた。
でも……俺の昨日からの症状は……お袋に聞かされた状態に似すぎているんだ。
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