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[看護婦に扉を開けられ、ヴィンセントの顔を見るや、驚いたようなほっとしたような複雑な表情を一瞬で顔に浮かべ、促された小さな椅子など見えぬように思わずぱたぱた、と2,3歩歩いて近寄った]
ヴィンセントさん…!
ニーナ、どこにいるか知りません?ニーナ。
あぁ、その前に、ニーナ、知ってますよね?
昨日もここで話し、してましたし、顔覗かせてましたよね?
[早口で捲くる。]
[複雑な表情を問うよりも早く捲くし立てられ]
ニーナさん?
今日はどうやら遅いようですが、まだ来てませんか。
ええはい、もちろん知っていますとも。
[そこまで言って、訝しげな表情を見せる]
…何か、ありましたか?
[ヴィンセントの返答を聞き、力が抜けたようにトスンと椅子に座る。近くのリックは、彼女を支えようと手を貸しただろうか。
ほっとした感情とぞっとした感情、逆のふたつがうねり、更に冷たい汗が背中を流れるのを感じた]
…知らないって。
看護婦さんが。
ニーナ、アーヴァインさんと一緒…?
[焦点の定まらない目でヴィンセントの眼鏡を見つめる。
知らない?
でも今朝ニーナが遅れているようですねと言った時、何も――
[何もなかっただろうか、と口ごもる。
看護婦は適当な相づちを打っただけで、はっきりと名を聞いたわけではなかったろうか。
しかし、それよりも]
…まずは診察が先です。
体調のよくない状態で考えても、正しい判断は出来ませんよ。
[茶色のレンズ越し、焦点の定まらない目を覗き込み言い聞かせ。
淡々と診察を進めてゆく。
やがて下った診断は、疲れから来る風邪だろうとのことだった]
[診察中も心ここにあらずといった風で、そわそわしている。]
どうしよう、ニーナが。
コーネリアスさんが、占う、とか、消える、とか言ってたから…
聞いたら何かわかるかしら?
コーネリアスさん、サーカスに行ったら会えるかしら?
[レベッカの言葉は、なかなか興味深いものだった]
コーネリアスさんが、そんなことを……。
そうですね、一度聞いてみるのもいいかもしれません。が、
[心配そうな表情を向け]
今の体調で出歩く事は、あまりお勧めできませんね。
どうしても、というのならば…薬を飲んで効いて来てからご一緒しましょう。
[医者がいれば寄り道程度は対応できるでしょう、と穏やかな笑みを向ける]
私は大丈夫だわ、平気よ。それよりニーナが心配なの。
あ、お薬、ありがとうございます。
[看護婦から水と白い粉が包まれた紙を受け取って、それをさらりと口に放り込む。
グラスを口につけて上を向き、伸びた喉がこくり、こくり、と上下した。]
…え?
そうなの、ハーヴェイ君も。
[看護婦が、黒い猫を連れた青年も朝やってきて同じ事を聞いていた事を教えてくれた。
お礼をいいつつヴィンセントの笑みとリックを振り返り、直ぐにでも診療所を飛び出そうと立ち上がった。]
[立ち上がったレベッカを、咄嗟に止めてくれたのはリックだった]
…ダメですよ、レベッカさん。
薬はそんなすぐに効くものじゃありません。
[けれど他の患者を見ている間に、リックの制止を振り切って行ってしまうであろう事は明白で]
すみません、私はこれからエレノアさんの往診に行ってきます。
ついでにレベッカさんも送ってきますので。では。
[看護婦にそう告げて、慌しく白衣を脱ぎ鞄を手にした]
おれも行くけど。
ドク…ヴィンセントさんにだけ任してたら、絶対怒られるし。
レベッカさんは魅力的だしね?
…あ、ミズもそういえば体調悪いんだっけ。
ラッセルさんも悪そうだったし。
体調不良な人ふえて、お医者さまは儲かる?
えぇ、私は大丈夫よ?
私よりニーナが心配だわ。
ヴィンセントさんはエレノア奥様を見に行って差し上げて大丈夫よ?
[送っていく、と言われて子供のようにイヤイヤと首を振る。]
今は診察中だからドクターでもかまいませんよ?
そうですね、彼女はとても魅力的ですから。
[小さく笑ってから、真剣な面持ちに代わり]
…ええ、少々。
どうやら体調不良者が増えているようですね。
ラッセルさんもとは知りませんでした。一度見せてもらった方がいいかもしれません。
[拳をこつんとリックの額へ当てる振り]
そういう冗談は言ってはいけませんよ。
サーカスが来た影響か、体調を崩す人が多いですね。
規則正しい生活が、風邪の一番の予防薬なのですけれど。
[サーカスが力を引き出そうとする副作用か否か、真相は闇の中]
患者の言う大丈夫ほど、当てにならないものはありません。
医者が言っているのだから大人しく従いなさい。
[空いてる手で、レベッカの腕を取ろうと手を伸ばす]
ニーナさんを心配しているのは貴女だけではありませんよ。
さあ、そんなに首を振ると頭痛が悪化します。
エレノアさんのところに早く行く為にも、大人しく送られなさい。
どこだ大丈夫だって言うの、レベッカさん。
さっきまで辛そうだったじゃないか。
だいたいすぐ効くなら、そんなの医者要らずだよ。
先生の言うとおり、やすんでなよ
[ちょっと強めの口調でふたりに言われれば、しゅんと下を向いて]
ん…はぁい。
わかったわ、少し休むわ。
心配してくれて、ありがとう。
[ヴィンセントに取られた腕を、素直に引かれて家路に向かう事にした。が]
でも、少し休んで楽になったら、見に行っていいかしら?
いてもたってもいられないの…。
[俯き加減のまま、小さく言ってみた]
…ほら、診療所については否定しないんだから。
こういうお医者さんに儲けさせちゃだめだよ。
サーカスの影響とか言うなら、サーカスに診察代はらわせないとね。
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