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―寮―
[何時もと同じ朝。何時もと同じ目覚め。
シャワーで軽く汗を流し、何時もと同じ行動を淡々とこなす中で、昨日少女から聞いた話を思い起こした。
ひとにつくモノ。]
…憑、魔。
[それが敵だと言う。数日前の洋亮なら一笑に伏していた。
軽く目を伏せて部屋を後にした。ポケットの中でかちゃりと何かが触れ合う音がした。]
[フユは伸ばした一旦手を止め、
頷いたマイコの頭をそっと撫でた。]
昨日、ヒサタカ……さんに
矢を向けられたんだ。
アンタも気をつけるんだよ。
―校舎・屋上―
[紺碧の空が白く染まって、それから
突き抜けるような蒼に色を変える。
それでも、コンクリートの上に仰向けに寝転がったまま
ぼんやりと空を見上げ続けた。真っ青な空が少し憎い。
日が高くなるにつれて、じっとりと重い空気が熱を孕み始める。
額に滲んだ汗が、顔の横を伝って、落ちた]
ヒサタカさん?
[首を傾げる。すぐには浮かばなかったらしい]
ええと、どの人?
どうしてフユせんぱいが?
[首をかしげて。手の下から見上げる]
[弓矢を手にして、弓道場を出る。以前に感じたのと似た…しかし僅かに違って思える気配が剣道場の方から感じられた。吸い寄せられるように、足がそちらに向かう]
……っ、あー…。
[溜息混じりに、音が口唇から零れる。…意味なんて無い。
ただ、何か言わないとやってられない気分だっただけで。
ゆるりと片腕を上げて。力尽きるように身体の反対側へ崩れる。
ぱたんと寝返りを打つと、コンクリートの持つ熱が胸部へと伝わった。]
俺がききてー…。
[誰か答えろ。20字以内で。
何処に投げる訳でも無い要望を、ぽつりと零した。
金に染まった髪から、ぱたりと滴った汗が、コンクリートに落ちる。
俺が人間か、なんて。
昨夜、投げられた質問がただぐるぐると頭を回る]
[ヴン、と。
鋭く大気を断ち割る動き。
それは剣道ではなく、剣術──実戦を想定した武芸の動き。
五年前の事件の後、密かに習い始めたそれは、固めた決意のための積み重ねの一つ……だったのだが。
その目的は、ここに来て、方向性を違える事となっていた]
……っと……。
[不意に、乱舞が止まる。気配と視線を感じた。
木刀を下ろしつつ、入り口に佇む人物へと視線を向けて]
……どう、しました?
[問いかける様子は、特に変わりなく思えるが。
以前はあった柔らかさは、影を潜めているだろうか]
いえ、そんな事は。
[額の汗を拭いつつ、短くこう返す。
以前であれば浮かんだであろう笑みは、今はなく。
……今はいない、幼馴染がその姿を見たならば。
五年前、心を閉ざした頃の姿を容易に思い浮かべるだろうか]
[短い返答に、僅かに目を細める]
そうか…邪魔にならないなら、暫く見学させてくれ。
[言って、開いていた扉を閉めると、その場に腰を降ろした]
見学って……構いません、けれど。
[見てても、面白くないですよ? と。
冗談めかして言うものの、特に拒む様子は見せず。
一つ、深呼吸をしてから木刀を構え直すと、始めはゆっくり、段々と動きを早めるように動き出す。
その後を、慕うように舞う、風]
[ゆるり、瞬く。視界の端の校内へと続く扉が
コンクリートから立ち上る陽炎に揺らめいて見えた。]
……、
[暫く黙り込んで、小さく溜息を零す。
ただ諦めるには、あまりにも難しかった。
コンクリートへと投げ出した掌を、ぐっと握る。]
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