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ローズさんに、言っておかないといけない事がありました。
実はね、ウェンディを占ってもらわなくてもよかったのです。
彼女の言葉を、信じると決めたから。
例え人狼であったとしても、交わした言葉に嘘などないと思ったから。
はは、やはり私は異端審問官失格ですね。
[くすくす。]
[ 煙草の先端では仄かな焔が燻り続けるも、未だ半分以上残る其れをやや乱暴に灰皿の底に押し付けて消せば漂う煙も次第に薄れ、大気の中に紛れていった。
硝子製の器を卓上に置けば、緩慢に立ち上がり部屋を後にする。換気の為に扉は薄く開けた儘。苦く何処か感覚が痺れる様な煙草の残り香は強く躰に纏わりつき、自らの鼻をも突く。]
[ 軈て歩む廊下の先には開かれた儘の扉。
其の部屋の前まで辿り着けば、嗚咽が耳に届いたか。微かに眉根を寄せる。]
ギルバートさん?
[ 肩を震わせて嘆く其の男に掛ける声。]
[びくり。]
[伏せていた面を上げ]
[鋭い琥珀色の視線を投げ付ける。]
[そこに浮かんでいるのは]
[不快][苛立ち][軽い敵意]
[ 琥珀の視線を受け止めて返すのは黒の視線。其れはやや冷たさを帯びた色。]
……失礼しますね?
[ 口調だけは何時もの通りに一歩、部屋の内に足を踏み入れようか。]
[言い掛けた言葉を途中で切り、]
[一瞬目を伏せ嘆息]
…………ほって置いて呉れ。
[如何でも良い癖に……と殆ど声を出さずに呟く]
[ 再び肩を竦める所作。然れども其れはやや芝居がかっているか。]
つれないな。
[ 部屋の中に脚を踏み入れ扉を閉めれば、其の口調も叉変わる。]
折角斯うして話に来たと云うのに。
[ 艶やかに咲く薄い笑み。]
[芝居がかった所作][艶やかに浮かぶ微笑]
[がらりと変わった口調にも][驚く事は無く]
[素っ気無く][気怠るげに][視線を流すのみ]
……暇だから俺を弄りに来ただけだろう。
[その発語は完全なもので。]
哀しむ犬の様子を心配して見に来てやったとは思わないのか?
[ 気を悪くした風もなく、否、寧ろ愉しそうに謂う眸は変わらず黒曜石。唯、湛える其の色の奥底には欲望の光が僅か覗く。口許が象るのは弧を描いた月。
閉ざされた扉へと背を凭れ掛け軽く首を傾ければ、濃茶が揺れる。]
……まあ、其れも或いは正解か。
哀しむ。
[クハハッと]
[自嘲じみた][或いは揶揄も含むような][嗤い]
[唇を歪め]
……そうか。其れが普通だ。其れならば……
[亦も途中で口を噤み]
[ちらり、と][面白くもなさそうな顔で]
……心配だなんて笑わせるな。
俺もお前も所詮は自分の事しか考えて居ない。
[――声は、遠く。
水底から見上げる、月の光のように。揺らめいて。]
………?
[聞きなれた青年の、聞き覚えのない口調に、小首を傾けて。]
[ぼんやりと声のする方を見やれば。
見覚えのある青年の、見たことのない艶笑に、目を瞬く。]
ハーヴェイさ…ん……?
[零れる声は、届くことなく。]
[ 細められた黒曜石は男の様相を冷静に見、声を聞く。]
普通、ね。……唯の御犬様では無さそうだ。
其の方が面白くはあるが。
[ 口許に軽く握った手を当て腕を組み、体重は壁に預ける姿は気怠げか。]
……当たり前だろう?
人の絆の脆さ、愚かさはお前も見た通り。他者の事等考えるだけ無駄だ。
[ 視線は逸らされ窓の向こうを見遣り、続く男の科白に返すのは事も無げな言葉。]
そうか。似合いかと思ったが。
[ 拒絶には少し残念そうな声色に成る。]
若しくはお前も獣か。
ギルバート……、否、"Giselbert"?
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