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―工房:Horai―
[まるで子供のように表情を変え、急いで奥へと一度引っ込んだ夫を笑みながら見送った。
どうにも、自分の方が年下のはずなのに、夫と対峙する時は年下の子を相手するような錯覚を覚えてしまう。
年上のこの人との結婚を決めたのも、ほっとけない、そんな理由が2番目にあった。
そして戻ってきた夫の言葉に、名を思い出すように視線はすこし空を見る。]
あの子……ミハエル君だっけ。
[金の髪と大きな翡翠の瞳が印象的な、“綺麗”な子。
注文の事を言われれば、小さな苦笑を浮かべた。]
うん、今年もゼルのお手伝いに回るね。
[自分に彼から注文が来るとはあまり思っていないのは、自身をやや過小評価するきらいがあったから。
それは夫の作品を常に見ていると、より思うところでもあり。
そもそも夫が自分の作品を賛辞してくれるのは欲目が多いから――と妻は夫の常日頃の態度から思い込んでいた節もあったりする為。]
[そういえばその一端でもある工房の名前を最初聞いた時、単純にどこかの女神の名だと聞いて、素敵だねと真っ直ぐに褒めた。
真の意味を聞かされた時、真っ赤になって固まったのも、今となっては懐かしい思い出の一つだ。
どちらにせよ、根を詰める作業は今は難しい。
そんな事を思いながら、差し出された手は、極自然に受け取り、指先をきゅっと握って引かれるままに外を歩いた。]
―→外―
―宿屋―
Danke.
うん、いつもの部屋じゃ広すぎるから。
また今年もお世話になります。
[用意に向かうアーベルの背中に短く礼を投げた。
ベッティに案内してもらい、部屋に荷物を置くと友の*所へ*]
―村の通り―
あら。
[急ぐでもなく雑貨屋へ向かう途中、樹の陰で休む人を見つけ、何となしに足を止めた。
帽子のつばを軽く上げて、]
ごきげんよう、ミハエルさん。
こんな場所で珍しいわね。
[大人にするような呼称と共に、挨拶の言葉を掛ける]
─村の通り・樹の下─
[ふと上着の内ポケットを探り、何かを取り出す。
手に握られていたのはやや大振りの銀の十字架]
───母上。
[この村に来る直前に病死した母の形見。
それを見詰めて、僅か眉尻が下がった]
さって、どうするか。
先に、煙草補充に行くか、それとも……。
[墓地に行くか。
しばし、空を見上げて思案して]
……先に、親父たちの方、顔出しとく、か。
[ふ、と息を吐いて。
足を向けるのは、教会の方]
─ →墓地─
[通りを歩けば、知った顔にも出くわす。
一部には、あまり良い顔はされなかったが、それはそれ、と割り切っていた。
両親共に優れた宝石細工師であったにも関わらず、その道を継がずに風来坊を決め込んでいるのを快く思わぬ者は少なからずいるから]
……別に、俺がどう生きようと俺の勝手だと思うんだけどなぁ。
[やれやれ、と大げさなため息をつきながら、たどり着いた墓地]
……お?
[そこに、人の姿を見つけたなら。
きょとん、と瞬いて短く声を上げた]
―村の通り―
[陰になって表情は見えなかったか、空いた間を不思議に思う様子はない]
そう。
相変わらずお忙しいのね。
[返される言葉に相槌を打つ。
道から外れ、樹の傍にて一度立ち止まった]
隣、いいかしら。
―墓地―
――…嗚呼。
少しばかり感傷的になってるな。
[知らぬ者の墓であるなら何も思い出は浮かばない。
見知りであった者の墓も少なからずあるから
昔を思い出し複雑そうな面持ちとなる。
墓と向き合っていれば背後から人の声がして
青年はゆると振り返り瞬きをした]
お、とは何だ。
帰って来るなら来ると連絡くらいしやがれ。
[懐かしい幼馴染に破顔して]
おかえり、アーベル。
元気そうだな。
―外―
ミハエル君。
[遠めに金色の光は眩しく、近づいてくる少年>>74に微笑んだ。
声をかければ次いで夫も気づいたようで、同じように声をかけるのを隣で聞いていた。子供らしくない固い口調だが、ミハエルを形作る一つ、らしさなのだと思えば違和感は薄い。
会話の内容と、一度合った視線に、気を使われたことを知ると少し頭を下げた。]
それじゃあ、また。
[こちらはゆっくり手を振って、その背を見送って。
ユリアンと遭遇したのはその直後あたりか。>>75]
久しぶり、ユリアンさん。
あら、おじさんはお休み?
[年の頃の近い彼に微笑み、夫の声に彼の父親がいない事に気づくと少し首をかしげるものの、一人前になったのなら、それも普通なのかなと聞きながら、思う。]
在庫整理と言うよりは品物の補充だよ、クロエ
夏あたりしか仕入れが出来ないから…今年は沢山買い付けしただけ
[謝罪の言の葉が紡がれると幼馴染に微笑み返して。気にしないでほしいと謂う様子で要件を聞けば、うん、と頷き頼まれた物を棚から持ち出す。補充したての石鹸や糸を出すと紙袋で包み料金を伝える。]
今が一番忙しい季節だしね
夏になると色んな所ではしゃぎ出すみたいだ
[他に何かあるかと尋ねつつ石鹸の在庫を確認しまた棚に並べて。飄々とした、何処か浮かれ気味な少年のように振る舞い。]
針は大丈夫なのかな
裁縫道具で足りてないものもあるけれど
─墓地─
いや、まさかここにいるとは思わなかったからさ。
[振り返った幼馴染。
何だ、と言われてへら、と笑ってこう返す]
や、帰ってくるの、急に決まったから連絡のしようもなくてさー。
ああ、ただいま。
そっちも、変わりないよーで。
[それでも、おかえり、と言われたなら自然、表情は穏やかなそれに変わっていた]
─村の通り・樹の下─
僕の仕事だからな。
[忙しいとの言葉>>113にはそう返して。
隣に座る許可を求められると]
勿論、どうぞ。
[一度立ち上がり、岩に敷いていたハンカチをカルメンが座る場所へと移す。
ミハエルはそのまま何も敷かぬ岩の上へと座った]
そう言えば、僕が依頼した人形の進捗はどうなっている?
[訊ねるのは以前依頼した人形について。
白い肌に亜麻色の髪、瞳をラピスラズリであしらい、鮮やかな赤色を主体としたパーティードレスに細かな細工を散りばめるよう依頼を出したのだった]
先払いの報酬で材料費が足りぬようなら、追加で出すが。
父上からの仕送りも来たことだしな。
[そうして同じく彼も見送った後で、小さな黒い竜巻が横を走り抜けていった>>99。
かけられた声には、嬉しそうに笑みを浮かべ。
ただあんなに走るとバテるのは彼女の方では無いかとも思ったが。
なんだか急いでいるようなので、それを指摘する言葉は出しそびれた。]
クロエちゃんは今日も元気だね。
転ばないように気をつけて。
[辛うじて、それだけ口にして。]
クロエちゃんが行った方向、雑貨屋かしら。
うん……そうだね、少し暑いし、私達も急ごうか?
[指摘された事、外の暑さは少し気になるところではあり。
夫にそう言うと、無理の無い範囲で歩調を速めながら目的地へと足を進めた。
まだ途上の実を抱えた体なら、さほど無理なく歩けると思ったが。
慣れない重みに道中1,2度つっかかりかけ、ひやりとした汗をかきかかせる事にはなったか。]
ぁー、そうだね。
うちは忙しいのはほとんど夏ばっかりだけど、ゲルダのとこはそうは行かないもんね。
私にも手伝えることがあれば言ってね、こっちの手が空いてればいつでも手伝うから。
私なら力持ちだし、荷運びなら役に立つよ?
…あ、ありがとゲルダ。
[そういうと首を傾げて笑って。
品物の入った紙袋を受け取るといわれた料金をゲルダに渡しながら針は大丈夫か聞かれると、大丈夫と頷いた。]
針はまだ大丈夫。
うちにくる繕いは殆ど破れたのとか裾直しばっかりだから、足りなくなるのは糸くらいだよ。
―墓地―
確かにいつも此処に居るわけじゃないが
そんなに驚くようなもんか?
[軽く肩を竦め紡ぐ青年の口調は
如何にも神に仕える身とは思えぬようなもの。
馴染みの者に対してはついつい素が出てしまうようで]
……急だったなら仕方ないか。
嗚呼、こっちも相変わらずだよ。
もっとマメに顔を見せに帰って来い。
[寂しかったなどと言う性分ではないから
そんな言葉を向けてアーベルに場所を譲る]
そうだね、少し急ごうか。
暑いのも身体に悪いよね……。
しまったなぁ、日傘を持ってくればよかったかな。
[妻の言葉に頷く。
無理ない程度に歩調を進めるも、繋いだ手の先が傾げば]
危ないっ……―――
[悲鳴を上げること、冷や汗をかくこと数度。
その度に、危うく妻の身をもう片方の手で支えるのだった。
それでも、なんだかんだでゲルダの店の前に辿り着くか。]
─村の通り・樹の下─
ありがとう。
お若いのに大変ね。
[岩の隣の地面、ハンカチを敷いてくれた場所に腰を下ろす。
バスケットを傍に置き、帽子を外して膝に置いた]
順調よ。材料費も十分。
そうね……あと、一週間程で仕上がるかしら。
[風に吹かれる髪を手で押さえながら、傍らを見上げた]
丁度、今から材料を調達しに行こうと思っていたの。
別のお届けものもあるのだけどね。
夏場は仕方ないよ
ぼやぼやしていたら冬が越せなくなってしまうしね…
ン…手伝って貰えるのは有難いけれど――
女の子に重い物は持ってほしくないな
[つん、と幼馴染の手を突き何処か労わる様子。
洗濯稼業で荒れて無いか眼差しは彼女の指先に注がれ。]
好いハンドクリームもあるけれど…
なんてね…一番助かるのは売り上げに貢献して呉れる事かな
[冗談めく言の葉は幼馴染として向けたもので、足りて無い物が思い当らねば、少し残念そうにも振る舞う。]
道具に不足が無いみたいなら平気だね
消耗するものは幾つあっても足りないから
後は、洗濯バサミとかかな、使い続けてると脆くなるとは聞いているから
[売りつけだと思われても笑って娘ははぐらかす。
いい香りのするシャンプーだとか、都会の雑誌だとか、売ってもらった髪飾りだとかを引き合いにああでもない、こうでもないとしばしの歓談を楽しむこととなる。]
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