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だめ…!
[弾かれたようにそちらのほうへ。
水の中にいるように大気を掻いて]
[焦る程には早く進まず]
[酷く、もどかしい]
[押さえ付けられた顔を懸命に動かし、男を見据えた。
その表情は、殺人者のものにしては頼りなく。彼と言葉を交わしたことを思い出した。
緑の髪の少年のことも。]
何で。
なんでネリーを。
[ネリーは誰も殺してはいないのに。
呟いた声に激情はなく。けれど、瞳には殺意をみなぎらせ。]
[問いかけに、こくり頷く。]
だから、死んで。
あなたは生きていたいの?
[彼が気にかけていた少年のいない、この世界で。]
[ 赤髪の少女は彼も目に入らぬ様子で己が慕う少女を組み敷く男へと其の赤銅の瞳に冷たき憎悪の焔を滾らせ、地に落ちた蝋燭は其の色を敷布に分け与え徐々に揺めきを広げゆく。]
……此れが人の絆、ね。
[ 脆くも崩れた其れらに関心も失せたかの如く緩やかに巫女へと視線を戻せば、月を宿した双眸が移ろうのは映されし朱の所為か其れとも感情の揺らぎか。]
[同族と言われてはじめて、誰が人外であったかを理解した。男の力の訳も。]
あなたには、守るものがまだあるのね。
私にはもう無いのに。
[もう無いのに何故、自分がこの男が憎いのだろう。
殺してもあの少女は戻って来ないのに。
この男を殺したい。]
[視線を向けられ、一つ、瞬く。
わずか、揺らぐような瞳に。
返すのは、不思議そうな視線]
……なに?
[問う様子は、幼子のようでもあり]
それでも
自分が死ぬ前に、大切な人を守りたいと思うのは、当然のことだわ。
[わたしは少女を見る]
守るだけじゃなくて、守られるのだわ。
背を向けて、背をあわせて。
守られるのと守るのを、一緒にやるの。
そうじゃないと……一緒にはいられないのだわ。
[逆に問われ、ああそうかと気づいた。
あれほど恐れていた死は、もう怖くない。
自分はそれを求めている。
けれど、自分で胸を突く気はしない。
突くのは、目の前の男の胸だ。
ヘンリエッタは、力を求めて目だけで辺りを見回した。
蝋燭から零れた赤は少しずつ床に広がり、壁に移りゆく。
先ほどから咽が苦しいのはそのせいかと気づいた。
このまま、この男を放さなければ彼を殺せるだろうか。]
[女性の声が耳に届いたのか。
今まで殆ど感情を映さなかった、表情が大きく歪む]
しにたくなんて、なかった。
[沈鬱な表情の獣を、それでも懸命に睨めつけながら]
[とすん――]
[少女の体に衝撃が走り――]
[ふわり――]
[舞った金糸の陰から見えたのは――]
メイ…さ…ん?――何故……
[信じていたはずの味方。その味方に裏切られたことを知り、愕然とする――]
『ボクにとって…今の君は正しくないの――』
[聞こえてくる彼女の『言い訳』に、少女は――]
[くすり――]
[誰にも悟られずに微笑み――]
travaviller du chapeau――
[呟いた言葉は目の前の少女に聞こえたか――]
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