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――広間――
[ドアを開けば、先程までの不調は一切見せず。
薄紅色の唇をきゅっとあげ、中に居る人達に挨拶をする。]
[ゆっくりと視線を泳がせると、怪我をしたという青年の横たわる姿が目に入り、少女の瞳に僅かながらも心配の色が滲む]
こんばんは…。そちらの方は…まだ宜しくないのでしょうか…
[青年を優しくなでる女性を見つめながら、誰に問い掛ける訳でもなく、呟きは唇を滑り落ち――]
[ ハーヴェイの呟きを聞いたが如くに、徐々に広間には人が集い始める。彼の後から現れた人々には会釈をし椅子に腰掛ければ、ルーサーの言葉にやや苦笑する。]
態々正装して来るのなんて、アーヴァインさんくらいじゃないですか?
[ 食事の準備も疾うに出来ているのだろう、此処に来る迄の間にも厨房からは好い香りが漂っていた。生憎と、館の主は未だ現れる素振りも見せなかったが。]
……主役は遅れて遣って来る、でしたか。
[ 椅子に座れば手を組んで顎を乗せ、入り口の方を見遣りつ誰にともなく云う。]
[眠る怪我人にちらりと視線を向ける。]
容態は、安定しているのですかね?
結局、まだお医者さんには診せていないと使用人さんから聞いたのですが。
[優しくないというローズにはそれ以上何も言えず。
恐らく昨日の自分の答えのように同じ所を廻るだけだろうから
次いで広間に現れたコーネリアスの言葉に]
ちょっと熱が高すぎて、うっかり動かせないんだ。
一人にしておくのも不安だし、ね。
もし何かあったときに、すぐに対応できた方が良いだろう?
[ましてこれから会食の時。
そこまで人目は届かないだろう、と]
[ネリーの呟きを聞いてから“最後の晩餐”の絵を見て]
あはは、何を怖がっているのですか。
私達招待客は11人、館の主人を入れても12人。
“最後の晩餐”には、数が足りませんよ。
あの絵は全員で13人描かれているでしょう?
[からからと笑い飛ばした。]
[続々と集まってくる客たちに、挨拶をしつつ、自分も席へと向かう。
何もない……そう、思っていても、不安があって]
……大丈夫……考えすぎなんだから。
[また、自分に言い聞かせるように呟いた時、ふと、耳に届いた短い声]
……不吉……って?
[声の主──ネリーの方を見つつ、小さく問う。
不安を宿した瞳の色彩は、淡い紫だが、本人はそれと気づくこともなく]
使用人の御一人が、麓に医者を呼びには行かれたのですが……。
[ 入って来る人々を見ていたがルーサーの言葉に窓の方へと視線を遣る。薄いカーテンに遮られてはいたが、未だに雨が降っているのは簡単に見て取れる。]
……此の雨ですからね。
[ルーサーの声には少し悩むように]
安定している…とは言えないかな…。
昨日ほどじゃないけど。
まだ医者が来ていないからね。
この雨じゃ明日になるんじゃないかって。
-広間-
[橋の向こうから、館の全貌が見えた時にも知ってはいた、館の広大さをヘンリエッタは実際歩いてみて、身を持って理解した。
広さもさることながら、その充実した室内に、つい時間を忘れ道を忘れ、広間に戻った時には室内はずいぶんと賑やかになっていた。]
こんばんは。
[館の主がまだ姿をみせていないことにほっとしながら、ヘンリエッタは軽く頭を下げた。]
……使用人の女性も入れれば、十三人ですけどね。
[ ルーサーの勘定に、思わずポソリと呟くも、]
まあ、其れでは些か強引過ぎるとは思いますが。
本来は御二人居るわけですしね。
[絵へと視線を戻してからそう付け加えた。]
[とりあえず、席に着こうとして、どこに座れば良いのかわからず辺りを見回す。
場の者たちの視線を追って、壁にかけられた絵画に気づいた。]
ぇ?
[呟いた声は意外に大きかったらしい。周りの反応にはっとして]
あ…いえ。
そう、ですよね。
[牧師の言葉に安堵した、というように笑みを作った]
申し訳ございません。
お気になさらないでくださいまし。
[周りを見渡し、視線は手許に戻る]
……あんま怖い事言うなよー。
折角の食事の前なんだからさ。
俺、こういう席って慣れてないんだよね。
普通に食ってて良いんだよな?
[半ば冗談めかして呟いて]
[牧師に図星を指され、少女の頬が朱に染まる。]
子供じゃあるまいし、迷子になんてならないわ。
ちょっと、この館が広過ぎたのよ。
[反射的に否定したのは、牧師の笑いをからかいと捉えたからだろうか。
しかし、その笑顔は不快ではなかった。]
ハーヴェイ君。
年下の女の子を苛めるような言動はよろしくありませんね。
それに、使用人の数まで含めるのは反則ですよ?
[ふふ、と笑う。]
好いんじゃないですか?
[ ナサニエルの言葉に軽く笑って、壁に掛けられた時計を見遣る。其の針はもう直ぐに、真上を指そうとしていた。]
多分。
怪我自体は大した事はないと思う。
自分で階段を下りたみたいだから。
[発熱は心因性のものも含んでいるのだろうとは心の中の呟き]
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