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厭です。
と、言いたいんですけれどね。
[そのような言葉は、叶わないと悟っている]
俺には正義感も何も無い。
ただ、“人狼”という存在を、己の眼で見たい。
それだけでしたから。
[その姿が解ける瞬間の、相手の台詞。笑みを深めた]
……挑発の心算ですか?
それはまた、相手が悪かったと言っておきましょう。
……すまない。
でも、大分、落ち着いたから。
[不問の言葉に、返すのは苦笑めいた表情と言葉]
その報せは、俺も聞かせたくはないし、取りあえず信を置けるもののその報せも聞きたくはない、かな。
……俺に、できる事は限られている。
全てを護る事は、叶わないからね。
[ぽつり、と。
零れたその部分は、ぎりぎり聞こえるかどうか、という程度の呟き]
しかし、アーベルの行きそうな所、か……。
あいつ、神出鬼没を地で行くからなぁ……。
[獣の動きは止まらない。
肩を、脚を、胸を狙って爪が振るわれる]
[だがいつもなら真っ先に狙う首を狙わないのは何故か]
[熱に浮かされ本能に染まっていた暗紅色が、一瞬物問いたげな光を宿して、青年を見た]
[迫る灰色。耳許に、手を触れた。
外す手間ももどかしい。強引に引き千切り、手の内に握る。
己の力の一部を、操る為に。
一回り小さな影が間に割り入り、爪を弾く。
その姿は、目の前の獣によく似ていた。
その色はより赤に近く、より昏かったが。
全てを弾く事は叶わず、青年の身体に幾つか、赤い筋が走った]
[訪問が空振りに終わって疲労感が出たのかため息をつきながら、宿へと戻る道を歩いていると。]
あー?ティルじゃねえか?
あいつ、何やってんだ?あんなところで。
[妙に不安そうな仕草をしているのがやや気にはなったが、軽く手を挙げてみる]
Homo homini lupus.
御存知ですか。
人にとって、何より恐ろしいのは、人だ。
貴方は力を欲していた。
けれど、こんな力――持たない方が、良かった。
形は違えど、貴方も、そう思っているんじゃないですか。
[二人で宿へと向かうと、入り口で何やら話しこんでいる二人組みをみかけて近づいて行く。]
ユーディットさん、エーリッヒさん…
中に入らないでどうかしたんですか?
[何やら不安げというか、良い気配を纏っていない二人に、微か何かあったのかと心配そうに首を傾げ尋ねた。]
無理は、なさらないでくださいね。
[落ち着いた、と言うエーリッヒの顔を見上げてそう返す。]
ええ、……出来れば誰の報せも聞きたくはないんですけど。
[そして、零された一滴の呟きが耳に入る。]
けれど、やれることはやらないと。
出来る事がある限りは。
……エーリッヒ様にも判りませんか。
広場にはいないようですけど、本当にどこに行ったんだか……。
……二人に、会いに行ったんでしょうか?
[ふと思いついて言ってみる。]
[暗紅色が揺れる。中に走る翠の光]
(どうして――)
[本能に流される意識の中、僅かに浮かぶ思考]
(それを――)
[それでも動きは止まらぬまま。
全体重をかけて上から圧し掛かる]
[イレーネと共に宿屋へと到着する。
宿屋の外には少し前に宿屋で痴話喧嘩していた男女。
今回は全く違う雰囲気を醸し出していたのだが]
………。
[イレーネが声をかけるのを見て、自分は何も言わずに二人へ会釈]
[普段より足が重く感じながらも歩いていれば、自分の名前を呼ぶ声がする]
ハインリヒのおっちゃん!
[軽く手を上げている姿に、なんとなく安堵を覚え、そちらに駆け寄った]
おっちゃん、アーベル兄ちゃん見なかった?さっきまで一緒にいたのに、いつの間にか居なくなってて…
[かけられた声に、顔をそちらへ向ける。]
イレーネさん。と、ユリアンさん。
[軽く会釈をした。]
いえ、入りたくても開いていないんです。
どうも、どこかに出かけてるらしくて。
[ちらと宿屋を見上げた。]
……ああ。無理はしない。
[静かに言いつつ、頷いて。
続けられた言葉に、ただ、苦笑]
ん、できるだけの事はする。
……背負う覚悟を、決めて、ね。
[静かな言葉、それと共に苦笑は解け]
ここにはいない……。
二人に……というよりは、むしろ。
自分の考えを、固めに行った可能性も、あるかも知れん。
[昨日交わした言葉を思い返しつつ、呟く。
イレーネの声が聞こえたのは、その直後か]
[集中が乱れる。制御が利かない。
獣の影が形を保てず、揺らぐ。
具現化させたのは初めてなのだから、当たり前か。
そんな事を考えながらも、かかる重みに視界が移り変わり、僅か呻いた]
二人が死んで、再確認したよ。
俺は、人間が嫌いだ。
信じるなんて、幻想に違いない。
人狼の騒ぎに、皆が如何踊るか、見たかった。
お前は、お前を“信じている”人々を裏切って、如何だった。
楽しかったか、黒き獣。
[押さえつけられながらも、浮かぶのは歪んだ笑み。
自由の効かない手を滑らせて、掴むのは、隠し持った刃]
[駆け寄ってきたティルの様子を見て、声?かけたのは間違いじゃなかったようだな、と安心し]
アーベルかあ?俺は見なかったが…。
あいつも今、色々あって辛え時だろーからな。
独りになりたいのかもしんねーぞ。うん。
[そういってティルの頭をガシガシと撫でた]
もしかしたら、途中で宿に戻ってるのかもしれねーしな。俺は宿に戻るつもりだけど、お前はどーすんだ?もし戻るなら送っていってやるけどな。
[背負う覚悟。
エーリッヒの言葉は、すっ、と心の底に収まる。]
……そうですね。
[深く、頷いた。]
自分の考えを固めに……。
……ああ、
[イレーネとユリアンの視線を気にして、小さくこそりと]
……オトフリート先生のところに、ですか。
あ…開いてないのは仕方ないですよね。
あんな事があったばかりだし…。
おでかけ…ですか?
[ユーディットと同じように宿を見る。]
[エーリッヒの最後の方の言葉は丁度聞き取れたが、意味がよく分からなかったので微か首を傾げたまま。]
[浮かぶ怒気。動揺。悲哀。悔悟。
暗紅色の中に幾つもの小さな光が弾け散る]
[口の中に湧き上がる苦い味、甘い痺れ。
だから牙は使えなかった。使いたいと思わなかった]
グルルゥ!
[一声吼える。
勢いに任せてその心臓を狙い腕を突きこもうとした]
[隠し持たれた刃になど、微塵とも気付かずに]
……苦しい?
見ててやるのも良いけれど、
[この世に未練など、無かった。
その心算だった。
自分が死んだ後の事など、知らない。
ならば、この獣は生かしておいてもいい筈だ。
けれど。
ほんの僅か、脳裏に、何かが過ぎった]
――…それも、癪だね……っ!
[突き込まれる腕を避ける事はせず、
一点へと意識の注がれた一瞬、
獣の首筋に、聖別された銀の刃を突き立てる]
[囁かれた言葉に、小さく頷く]
ここにいない以上……他に、考えられる場所はない、な。
行ってみた方が、いいのかも知れん……。
[あいつも無茶するから、と。
小さく呟いて。
さて、こちらの二人にどう説明したものか、とイレーネたちを見やる]
[出かけて。
ユーディットの言葉にアーベルが居ないと言うことを知る]
…まぁ、店開けてるどころじゃないだろうね。
普通を装ってても、あれは流石に堪えるだろう…。
[昨日見たアーベルを思い出す。
紅く染まりながら、いつも通りを振舞っていたが、その口数は少なかった]
[直前までなされていたユーディットとエーリッヒの会話はさっぱり分かっていない]
[左手の中に、その鼓動を握り締めるのと同時。
首筋に鋭い痛み。
そのまま全身へと駆け抜ける衝撃]
ウ、ァぁぁぁ――!!
[命の源を握る腕だけが、異形のまま。
その輪郭はヒトでも獣でもない姿へとなり。
動きを止めた]
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