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くっ…止めろ、ラッセル!!
[ラッセルが錯乱している様子は見てとれて。
おまけにシャーロットを殺そうとこちらに向かってきている。
言葉で止まるとは思えなかったが静止をかける。
同時に、ナイフの起動上に立つ。
シャーロットは殺させない、守るから、一緒においでと、あの時約束したのだから。
ナイフがもうこちら側に届いたのであれば、それを急所をはずしながら、腕か肩に受けるだろう。]
[トビーの言葉にそちらに一瞬だけ視線を向けた。
彼の言葉は自分を疑う言葉。]
……
[一瞬のことなので向こうはこちらの視線に気づかないだろう。
胸の内に思うことは…]
[ラッセルの声。
シャーロットをおおかみと呼ぶその声]
お嬢さんが…?
[周りを見る。
だけど]
…ハーヴェイさん、あんたまで!
なぜ…誰もラッセルを信じない!!
俺は、ラッセルが「ひつじ」と言った俺は……
[だから、食われたのだ、と。
言った所で聞こえるはずがない]
ラッセル……!
[人狼は、そこに居るのに!]
えっ?
[ラッセルを超えて信頼の目を向けていたが向けられた問いに虚をつかれてトビーを再び見上げる。
何を言われたのか意味を図りかねた]
[落ちていたナイフを拾い、シャーロットへと向かうラッセル。
危険は感じるものの、その側にはハーヴェイがいる。
なら、自分がなすべきは、ヘンリエッタに害が及ばぬようにする事、と。
そう、女は思い定める]
…………。
[今は、青年の動きを追う碧の瞳は、少女の歪んだ表情の陰の笑みを捉えない]
[振り下ろしたナイフはハーヴェイの腕へと刺さる。
完全に庇われてはシャーロットまでは届かなかった]
邪魔しないで!
おおかみは殺さなきゃならない、シャロがおおかみだから、嫌でも殺さなきゃならないんだ!!
[直ぐにハーヴェイに突き刺したナイフを抜き、その蔭に隠れるシャーロットを狙う]
[青年が声を上げ、養女に向かって行くのが見えた。
こめかみを押さえたまま顔を上げ、けれど墓守は動かない。
どちらかがその正体を現したなら、すぐにでも動けただろう。
けれど人の姿をしている以上、どちらを庇えば良いのか判断しかねた]
僕ね、ずっとわからなかったんだけどね。
ヘンリエッタさんは、ころされないんでしょう?
どうしてだろうって。
なのに、なんで閉じ込めるんだろうって。
きっとすぐに、連れ戻しにくると思うよ。
[言うことは禁止されていない。
受けたことは、見ていること、だけ。
だから、外へと一度視線をやって、言った。]
……何を、言ってるの?
[トビーがヘンリエッタに向ける言葉。
少年が何を目的としていたかは知らぬから、その意ははかり知れず。
零れたのは、微か、困惑したような、声]
―広間(回想)―
[広間に居たのはトビーくらいだった。彼にギルバートの事を告げるが、反応は前の二人の時とさほど変わらないものだった。彼がラッセルに水を持っていくと言えばそれを手伝い、広間を出て行くのを見送った。]
休んだほうがいい、か。
確かに今の我は少々疲れておるかも知れぬな。
[戦場で沢山の死を目の当たりにし、自身も死線を越えてきたが、今直面している事態はあの時とは全く違っていた。戦場では、敵と味方ははっきりしていた。それに、戦場と言う場所柄ゆえか、誰も彼も殺し合う事に納得して戦っていた。
だが今は違う。敵も味方もわからず、殺す覚悟も殺される覚悟も無いまま戦わなければならない。今まで経験した事も無い緊張状態が自分の精神力と判断力を徐々に奪い去ってゆく]
笑ってなど。
[掌を口元へと引き上げる]
おりませんわ…。
[疑問形に近い言い方でトビーへ返す。
表情は再び仮面めいたものとなって居た]
―広間―
[狂っていたのはセシリアか、それとも他の者達か、それとも・・・この我か。ユージーンやヘンリエッタの言葉を思い起こし、思考は堂々巡りを始める。いつしか眠り込んでしまっていたようだ。気付けば、広間には誰も居らず、廊下のほうから喧騒が聞こえてくる]
・・・眠ってしまっていたか。少々無用心でござったかな。
上が騒がしいが、また何かあったのであろうか?
[そうひとりごちて、重い体を引きずるように広間を出た]
[ハーヴェイが自分をかばい、ラッセルがその腕を刺した。
ハーヴェイの腕から血が流れるのが見えて]
……っ!
[ラッセルに向けたのはおびえでもなんでもない敵意の視線。
自分の大切なものを傷つけたから。
ラッセルにそのままとびかかり押し倒そうと、やらなければ自分も大切な人も殺されちゃうから、その思いが恐怖を上回った。
けれども人狼の力はまだ使わない、それは最後の手段。
男性よりも力の弱い女性の力でも不意打ちならばそれは成功するだろうか?
うまくいけば、そのままラッセルを床に押し倒し……]
[腕を刺され痛みに顔がゆがむ。
ラッセルのそれは、昨日のセシリアを髣髴とさせてくる。]
邪魔?邪魔をしているのはお前だラッセル!
俺はシャロを守る、それが俺の信じるべき道だ!
[彼女がおおかみであるかどうか、信じられないし、そんなことは今考える必要はない。
ただ身に降りかかる害意を振り払う、それに意識がいった。
頭に血が上っていた、その可能性は否定できないが――]
如何言う事ですの。
[其の言い方で思い出すのは黒服の男達]
あ。貴方真逆。
あの人達の…!?
[トビーの視線が外れても大きく震えて動けなくなった]
「ヘンリエッタ」っていう名前をしったのは、ここに来てからだけど。
僕は、見てたよ。ずっと。
ヘンリエッタが捕まって、逃げられるはずないのに、どうやって逃げたんだろうって思ってたの。
僕は、わからないけど。
殺されることはなかったのに。
殺さないって言ってた。
殺せないって言ってた。
なんで逃げたんだろうって、今でも思ってるよ。
殺せないのに捕まえてかくしておくって、意味がわからないよ。
ヘンリエッタさん、どうして?
[答えをしってるんだろうか、と、首をかしげて]
うん。
でも、僕、なんにもしらない。
お金を貰って、見ててって言われただけだよ。
[何も悪いとは思っていない言葉。]
捕まったのはかわいそうだなぁって思ったけど。
死なないなら、問題ないでしょう?
[少年と少女のやり取りの意味はわからない。
それは、女の知らぬ場所の事情をはらむが故に。
首を傾げる少年。
彼は何を知るのだろうか。
そんな疑問は、ヘンリエッタの震えに遮られる]
エッタ様、エッタ様。
大丈夫です、私は、ここにおりますから……。
[呼びかけつつ、震える背を撫でる。
何とか、落ち着けようと]
[人狼に関わる生業をしている為、護身用のナイフは腕に仕込んであった。
それを取り出す前に、シャーロットがラッセルに向かう。]
シャロ!?
[怒りの表情は、自分の怪我が招いたものだろう。
危ないと、引き止める手をすり抜け、彼女はむかっていった。]
っ!!
[シャーロットが飛びかかって来るのは想定外まで行かなかったが、隠れたままで居ると踏んでいたために少し驚いた。
よろめいても、堪えようと足に力を入れる。
菜園での作業で鍛えているとまではいかないが、実のところひ弱でも無い]
シャロ……僕は、君を許さない。
君は僕の大切なものを奪ったんだから!
そして僕は、僕のことも赦さない。
僕は今、家族を手にかけようとしてるんだから…!
[零れる涙は止まらない。
足を踏ん張ろうとして、結局縺れて倒れ込んでしまう。
けれどナイフを握った手はそのままシャーロットへと向けられた]
ラッセル!落ち着け!…って無理か。
[聞こえるはずがない。まして人狼を前にすれば。
セシリアがそうだったように]
…っ、このっ…
[ラッセルを押し倒そうとするシャーロットに毒づく。
何も出来ないことがここまでもどかしいとは思わなかった]
[ラッセルを押し倒し、近くにあったヘンリエッタが取り出したナイフを手にする。
涙を流して訴えるラッセルの姿、自分もやっていることは同じようなことだろう。
違うことはラッセルの場合はギルバートが死んで、自分の場合はハーヴェイがまだ生きていることだろうか?
ラッセルの言葉に首を横に振る。けれども真実は伝わることはないだろう。声にすればあるいは伝わったかもしれない。]
……ちがう……
[小さくもれた声は何に対してか、ラッセルにだけ聞こえるだろう小さな声。
ラッセルにそれは伝わらないのかもしれないが。
握られたナイフがこちらに向けられる。
自分も手にしたナイフをラッセルに振り下ろした。]
キャロルさん。あのね。
きっとすぐに、ヘンリエッタさんを、人が迎えにくるよ。
隠しとくんだって。
[首を傾げて、言って]
しるし、つけてきたから、そのうちくると思うよ。
教えちゃ駄目だったかなぁ…?
でも言われてないからいいよね。
ここから、逃げられないし。
―二階客室前廊下―
[階段がいつも以上に長く高く感じる。体が重い。これは疲労ゆえだろうか、それとも無意識に“そこに行きたくない”と言う思いの表れだろうか?
ようやく階段を上りきり、見えた廊下の先は・・・予想通り、いやそれ以上の惨状であった。]
・・・一体、何があったと言うのだ・・・!
[その言葉は、その場の誰かに届いたであろうか。分かるのは、もはや事態は彼の理解の範疇を超えている、ただそれだけであった。]
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