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―一階:廊下―
[始めに見えたのは、玄関に立ち尽くすウェンデルの姿だった]
ハシェさん、
[何が、と問いかけ、言葉は止まる。
足を進めていくうちに階段の傍の様子も目に入り、何が起こっているかは、容易に知れたから]
[ウェンデルの声にそちらを見る、一瞥するだけで、その瞳は正気をもってる人のものには見えなかっただろう]
ヘルちゃんのことか?
[ゆがんだ笑みを浮かべてオトフリートを見る。
向こうからの刃も届くだろうとい距離に近づき、それはこちらの爪が届く距離でもある。
爪を振るい、冷静さを失った今の自分に、向こうからの反撃など頭になかった。]
[エーリッヒの言葉が届く。
玄関の扉の向こうには、自衛団がいる。
それに思い当たった瞬間、扉を閉めた]
エーリッヒさんは、人間です。
[小さく、呟くのはまわりの音に紛れたか。
ただ、階段の様子を見ているだけではいたくなかった。
エーリッヒが人狼なら、彼がヘルムートを殺したのだとわかっても、
人狼は殺すものだと知っても。
名前が呼ばれた。
エーリッヒの目が、こちらを見た。
駄目だと、思った。
一瞬のまれた時、場が動く]
―集会所/???―
[身体は埋められた。
そばに居ても、触れる事ももうできない。]
……どうしよっかなぁ。
[今までのように、退屈しのぎに料理をする事もできない。
紅茶を淹れて、甘いものを食べて気を紛らわせる事もできない。
自分はどうしたいのだろう。
何をしたいのだろう、何をすればいいのだろう。
今わかっているのは、ただハインリヒの傍にいたい…という事だけ。
だから、ハインリヒが行く先についていく。
階段の辺りの騒ぎがもし聞こえれば、そちらを気にするけれど。
ハインリヒがそちらに向かわないなら、時々ちらちらと視線を向けるだけにとどめるだろう]
―外・西の崖付近→玄関―
[何も知らない、気づかない。
ヘルミーネが自分のせいで死んでしまったかもしれない事も。
無知は罪という言葉は今の自分に良く当てはまった。それすらも今は知らないわけだが。
墓へと寄ろうと、目星をつけて向かいかけて。
何か供えられるものでもあればと、玄関口へと入ろうとして、開けっ放しで立ちつくす、ウェンデルの姿が見えた。
散々昨日言われたせいもあり、若干歩みが止まりかけるが、様子がおかしい事に気づけば、その向こうを見ようと後ろから覗き込んだ。]
へ……
[階段前で繰り広げられる攻防に、目が点になった。]
嗚呼。
分かってるつもり、…だったんだケドな。
[姿を消す直前、向けたのは苦い笑い]
― →集会所・階段―
[粒子が再び女の形を為したのは、騒動のすぐ近く。
すぐ下で縺れ合う2人の姿に、目を見開いた]
[歪んだ笑みと共に向けられた、問い。
それに、答えはしなかった]
……それは……。
[一つ、息を吸う。
身の内の躍動は、人狼を殺せとざわめきたつ。
それに、溺れるつもりはないが。
今は、それすらも力にせねばならない、と思い定め]
……教えて、あげま、せん、よっ!
[出来うる限りの力で床を蹴り、距離を詰め。
波打つ刃──魔除けの力を秘めるという、それを。
持てる全力で、突き出す。
切っ先が狙うのは、命の鼓動の刻まれる場所]
─広間─
[止まった足。既に扉まで進んでいたフォルカーが数秒こちらを見て、何も言わずに出て行く]
………─────。
[扉の向こうでは何かが起きている。身の内のものがざわめき、表層が、揺らぐ]
……ダメ、今行ったら……。
[引き摺られる、そう感じた。足元に落ちた毛布はそのままに、両手が身体を抱く]
[人の形をしたモノに、似つかわしくない獣の腕。
直に目にするのは、初めてだった]
……じ、ん、ろう。
[ウェンデルの呟きは聞こえず、エーリッヒを視界に捉え、そう評した。
高揚感と恐怖と、その両方が綯い交ぜになる。
熱いのか寒いのか、分からない。
持ち上がりかけた手が止まる。
体は、動かなかった]
―結構前・西側の渓谷→エルザの墓前―
―っく。
[あっさりとローザを殺したことを認めるエーリッヒの言葉に自分をぐっと押さえた。
まずは、ローザを休めてあげるのが先だ、と。
だから、ローザの遺体も冷静殺意については冷静なまま、運べたのだろう。
もちろん、エーリッヒについては後できっちり落し前をつけさせると心に決めて。
黙ったまま、しかし苛立ちを隠さぬ様は彼等にはどう映っただろう]
おいおい、甲斐性無しって誰の事だよ。
って、まあ…嫁入り先を無くしてるのが二人いたら、何も言えねえか。
[エルザの墓前、野郎ばかりと言ったことに対してのユリアンの言葉に薄く笑いをかえしつつ、
オトフリートが戻ろうというのにはうなずいて。
彼に話があると言われたなら何をか察して黙って待っていた]
[苦い笑いには、僅か睫を伏せて]
―集会所―
[最終的に引き寄せられたのは階段の上。
何とも言い難い表情で呆然と見下ろす青年の近く。
同じように見下ろして息を飲む]
望まれるように。
望んでいないのに。
[ユリアンの顔を振り仰ぐ。
少し見つめて首を横に振り、ゆっくりと視線を戻した]
[爪を振り下ろす、獣のような右腕を。
飛び出したオトフリートには対応できなかった、刃がその身にささるのを感じる。
激痛が走る、苦しい痛い。
その右腕はオトフリートの首を捕らえて深く抉っていたが。]
ぐぅ…いてぇ……ちく…しょ……。
[漏れ出る声は、かすれてうまく出ない。
後ろで何か声や扉の閉まる音が聞こえた気がする。
意識が霞み…、視線は広間の方に向かう。
人の気配が二つ、立ちつくしてるように見えた]
――…………ら、ない、と。
[小さく、声が漏れた。
既に遅いと、頭のどこかで、冷静に考える。
どちらにとっても。
思考とは裏腹に、手は震え、赤石に至ることは、なかった]
―集会所・階段上―
[エーリッヒの腕は、明らかな異形のそれと化し。
それに対峙するのは、]
何、やってんだよ。
…か弱いくせに、
だからお前は…ッ
[声は震えた]
[手に伝わる手応えと、直後に感じた衝撃。
痛みが走る。熱い。
猫が鳴いているのが、微かに聞こえた]
………………、…………。
[口を動かすけれど、音は出なかった。
代わりに零れるのは、紅。
それでも、最後の力か意地か。
右手からは、力を抜く事はなく。
霞んでいく意識は、ただ、ぼんやりと。
『怒られるなあ』
なんて言葉を、浮かべていた**]
[動いているのを見たということは、今から動いてもまったく無駄だということ。
それでも、玄関から階段までは近い。
思わず、駆け出した。
刃が貫くのも、爪が抉るのも見えたけれど]
――エーリッヒさんは、人間ですよっ!
─広間─
[立ち尽くしていたのは刹那。自分は、見届ける必要がある。気を強く持ち、一歩足を踏み出す。それを切欠に前へと進み、広間の扉を開けた]
―結構前・集会所に戻るすがら―
[ユリアンが去った後、オトフリートが見つけたと言うのに、ぴくりと眉間に皺が寄る。
で、誰なんだ、と短く問えば返る答えに]
やっぱりそうなのか…許せねえ、ローザをやっちまったばかりかその元凶だったとはな。
[ぎりり、と煙草を噛みしめて憎しみを露にする。
しかしフォルカーの事になれば非常に複雑な表情を返し]
俺は、アイツに襲われた。
余所者なら…いや、そうでなくても構わないっつってたな。
まあ、気をつけろを言われれればそれなりに見てるけどよ。
悪いが、子供だからって容赦はしねえ。
これ以上俺に何かするようだったら、やりたいようにするぜ。
[あの少年が何を思って襲いかかったなど知る由もない。
手加減はするが、本気になったらなら責任はとらない、と言い切った]
[オトフリートの生死は確かめず、
足は広間の方へ向かう、手負いの傷口から血があふれ出す。
それでも生きようとする執着心からか、獣としての力があったからか、
駆け出すように、広間からでてきた人物をとっさに掴み首筋に爪を押し当てながら]
うごく…な……。
俺は…生きて…帰るんだ……。
[イレーネの身を左手に抱いたまま、
告げる声は弱弱しく、その手の力も徐々に弱まっていく]
[既に花は無いのに、高揚のようなものを覚えるのは錯覚か。
胸を押さえる]
この、
――莫迦者が。
[唇の隙間から、低い音が洩れた]
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