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……気がついたか、アーベル?
[青年の声が耳に届き、翠がそちらを見る。
真白の妖精が案ずるような声を上げて、尾を振った]
さて……後は、解放……か。
[呟く刹那。
翠はやや、翳ったか]
……対価が都合できんと、『メルヒオル』は動かんし……多少、強引にやるよう……か?
[己が掌に付着した緋色を舐め取っていたが、
青年の身体が傾ぐのに気づくと、片腕で支え]
お目覚めですか、シード様。
止血はしましたが、傷は治っておりませんゆえに。
[銀の煌めきの移動した先を、視線で追う]
レーヴェ様。お独りで大丈夫ですか?
[独りで大丈夫か、と問われれば、浮かぶのは苦笑で]
ん……『メルヒオル』に喰わせる対価があるなら、やらせるのが一番早いんだが。
生憎、そんな余裕はどこにもない。
……可能なら、力だけ投げてくれると助かる。
とにかく、解放だけは急がないとならない……。
御大や、シャイトさん辺りは特に危険だ。
お帰り、なさい。
[蒼い瞳を取り戻した青年に向けて、そんな言葉を発した。]
[執事の瞳が元に戻れば、あかい泪の跡は細かく砕けて霧散し、後には何も残らない。未だ紅いままの眸を除いては。]
・・・解放。
[金の髪と白い生き物と、銀の小箱を見つめる。]
[月と星の華が咲く空に視界を埋めながら
...がただ不安に思うは、オルゴールが本当に戻ってくるのか。事件が本当に収拾するのか。ということ
例えば、下の誰かがあれを利用するようなことにならないのかどうか。と
でも、もう気力もなければ、現在三歳児にも殺される自信がある。手で鼻と口を塞げば楽勝だ。
それに手札も切ってしまった。次は通じないだろうから、そうなったら本当に終い、ならやるだけやったし、これで駄目なら土台無理と。諦めもつくというものだ。なんて自嘲的な思考に浸る]
[傾ぐ景色が、かくりと支えられる様に止まって。
ゆるりと、執事へと向けて視線を上げる]
クリューガーさん。
……、にーさん、…に、チビ。 ……イレーネも。
[掛けられる声に僅か蒼の光が揺れる。続く会話の意味に気付けば、
エーリッヒの腕の中に納まった銀の小箱を見やり僅かに眉を寄せ。
何処か居心地の悪そうに、ふるりと視線を逸らす]
御意に。
[声を返すと、瞑目して片手に意識を集中させる。
漆黒の光が掌に集ったかと思った刹那、漆黒の薔薇が出でた]
このような形で申し訳ありませんが。
[断りを入れて、黒の花を金糸の青年へと向けて抛った。
ふわり、と宙を舞ったそれは、すんなりと彼の元に届く]
[視線を逸らすアーベルの様子に、掠めるのは苦笑か。
それから、飛んできた黒の花を受け取って]
……いや、十分。
さて……支えは、頼む。ローゼ。
[肩の上の真白の妖精を見つめて呟いた後、す、と目を閉じて。
その周囲に、ふわり、ゆらりと白い羽根が舞い踊る]
Die Fliege des Flugels weg von hier vermutlich erweitern, wo sie nicht andert.
In der Schwarzung duckst dich du, die Pupille, die stark schliest.
In der Welt des Schwarzen, das degradieren nicht einzelnes verpackt und andert wird.
Deine eigene genugende normale Schwarzung, die ist, ist uberhaupt nicht geschlossen.
Weil was anderung anbetrifft jedoch sie nicht ist, gibt es keine jeden Schmerz.
Verletztes Furchten, ohne schliesende Zukunft sein.
Das der Schnitt sie versucht sich zu offnen, helles geflustert.
Ohne die Pupille, zu diesem erweiternhimmel des Flugels offnend sich zu furchten.
Wenn du Seufzer, den, die Welt, in der sie ihn nicht andert, vermutlich halt zu andern.
Gerade sollte ein wenig Mut heraus gesetzt worden sein.
Du teilst dich durch dein anderst nicht und informierst vermutlich Fliege weg.
Die unbegrenzte Zukunft der Sachefurcht, die verletztes Zielen ist, die Flugelerweiterung……
[紡がれるそれは、飛翔を促す歌。
冥き闇より、翼を広げ。
天へと舞えと導く歌。
……それは、かつて彼自身に贈られた歌。
囚われし魂を、解放する祈りを込められたそれに応えるように。
銀は、微かに震える]
はっ……は、はっ……
[そして...は喘ぐように笑う。本当はそんな行動でさえも辛いのだが、今更自分がやったことを思い出して笑う
あの魔には何もできない。と思っていたのがつい昨日だったというのに。]
…ふ、はっ……は…
[できないと思ったことができたことへの達成感ゆえか、ただ悪戯が成功したとでも思っているのか。妙な昂揚感に支配されたまま笑う]
[いつの間にか黒の花弁は消え失せて、代わりに舞うは白き羽根。
空いた手を天へ向けて緩く伸ばすと、楽譜が其処に収まった]
さて。お返しします。
[片腕で支えた青年に、それを見せる。
解かれたままの漆黒が、緩やかに揺れた]
……『歌姫』……解放を。
[呟くような言葉は彼の声か魔の声か。
掠れたそれからは、察する事は叶わずに。
ただ、銀はそれに応えるように蓋を開く。
しかし、旋律は響く事無く。
ただ……揺らめく何かがそこより飛び立つか。
内に囚われし者たちの魂の煌めきが]
[やがて…庭園からだろう微かに聞こえてくる旋律に...は動くこともできず静かに耳を傾ける。
その意味。その効果まではわからぬものの。妙な安堵感に包まれる気がする
...は目を閉じて静かにその旋律に身を任せた。]
……ありがとう、ございます。
[緩やかに瞳を瞬いて。支えられたまま差し出された楽譜へ腕を伸ばす。
おずおずと、それでも確りとその紙を手に取れば、
―――掠れるように小さくも礼を述べて、そう、と。胸に抱え込むように。
ふと、銀から解き放たれた煌きをゆっくりと目で追って]
[煌めきが舞い、それを導くように白い羽根が舞い。
……やがて、狭間の者の周囲は鎮まり返る。
そして、銀のオルゴールは静かに、蓋を閉じた]
……さすがに……俺の力じゃ、即お目覚め……とは、いかないか……。
[零れ落ちるのは、疲れたような呟き]
でも……陽が、昇る頃には……。
[目覚めが訪れているはずだから、と。
呟いて、一つ、息を吐く。
翠の瞳は、どこか物憂げ。
……皆が目覚めて、それで終わりではなく。
自分自身にはまだ、解決しなければならない事が残っていると、*わかっているから*]
いいえ。
[にこりと笑みを返すと、
視界に映り込んだ煌めきに、目を細める]
……漸く、収集が着きましたかね。
[呟いた声には感慨……というより、
やれやれ、と言ったような響き]
[白の羽根が収まる頃には、再び闇の中に静寂が戻って。
青年の溜息と執事の呟きに、再び僅かに目を伏せる。
まさか自らの意思では無し、曖昧な記憶とは言え
己に責任が無いとは決して言いきれるわけも無く]
[溜息のまま、執事の支えから立ち上がろうとして。
それが叶わない事に気付けば、僅か目を瞠る。
肩の怪我も有るだろうがそれ以上に、空間転移などの行使で
肉体的な負担はかなり齎されていたらしい。力が入らずに。]
……ともかく、中に戻りましょうか。
[声を投げかけるも、頷いたか、反応を示さなかったか。
それぞれに思うところはあるだろうからと、構う事はなく]
ああ、無理はなさらない方が。
大分、負荷がかかっていたでしょうから。
[蒼の青年――“客人”の様子に気づいて、緩く首を傾ける。
流れ落ちる髪は漆黒ではなく、元の黒橡の色へと戻りかけていた。
傍らに膝を突くと、背と膝裏とに手を回して、ゆっくり立ち上がろうと]
[意識の外とは言え、自分のした事を考えれば苦笑を浮かべるしかなく。
楽譜を抱えたまま、暫くそこに居座るかと決めたふいに
回される腕に、思わず蒼の目を瞬いて。]
……え?…や。暫く放置しておけば、
[多分歩けるようには成るだろうから、と何処か慌てた様にふるり頭を振る。
そも、そこまで手を掛けて貰う事に負い目を感じるし
…扱いが、成人男性に対するものでは無いような。
おろりと慌てたところで、現時点では抵抗する力も残っていないのだから
相手が引き下がる以外、されるが侭にしか*ならないのだろうが*]
お客様を放置する訳には参りません。
それに、怪我の治療もありますから。
[引き下がる訳もなく、あっさりと言い切ると、邸内へと向かう。
抱え方についても、この方が負担がかからないからと答えを返すのみ。
迎える召使いに報告を済ませると、手当ては他の者に任せて、
バルコニーにて意識を失う青年も同様に運ぶだろうか。
――事が一段落ついても、執事は変わらず*執事のままのようだ*]
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