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何言ってるんだマテウス。
俺の方が手をあげられようとしてるってのに。
[マテウスの声に肩を竦めた]
[緊張感をものともしない、とても軽いもの]
……ああ、そう。
マテウスは俺じゃなくゲルダを選ぶって言うのか。
そうか。
俺が裏切らなければ裏切らないって言ったのは 嘘だったんだな。
[向けられる冷たい視線に真紅が細まり]
[鈍い光を放った]
……慕うものたちが傷つくのを止められず。
更に、内、一人を、手にかけ……か。
[あの狂乱はそれ故か、と思いつつ]
そして、その記憶すら、残らない……。
酷な話だな。
あの子にとっても……見守るだけの、お前にとっても。
[呟きつつ。
赤の光に戻る少女に、再び撫でるよに手を触れて]
いや、うそじゃないさ。
先に裏切ったのはお前のほうだ。
だってお前、ベアトリーチェを、殺したんだろう?
[ゼルギウスに冷たく言い放つ]
嘘というなら裏切るようなことをしてないといったゼルギウスのほうだな。
ゲルダ。
[少しばかり悲しそうに、けれど直接止めることはせず。
否、止めることが出来ずに。
ただその隣に立ち、三度右手に銀刃を握った]
ウェンデル。死にたくないのなら。
自分の身だけを護っていてくれ。
[マテウスの意識がこちらにも向いたのに気付き。
ウェンデルにそう声を投げた。
それも意味が無いかもしれないと、そう思っていても。
自分の中にも優先順位が既に確立していたから]
[ゼルギウスの問いかけは正しい。
ゲルダはこれから味わうだろう。苦しみを。
でもゲルダは一人じゃない。
だからきっと、大丈夫だとは言わないけれど。]
それでも、折れてしまう事はきっと。
[すい、と懐から抜く二振りの短剣]
[それを左右の手に持ち]
だったら、絶望に彩られると良い。
今それを選ばぬが故にどちらも失う絶望を!
[ゲルダの答えにそう声を張り上げ]
[麻痺毒の塗られた右の短剣をエーリッヒへと投げ付ける]
[掠ったとしても死には至らないが、身体が痺れ動きが鈍るだろうか]
ベアタを殺した?
ああそうだな。
それがどうしてお前に関係ある!
[マテウスの冷たい言葉に叫びながら]
[致死毒の塗られた左の短剣をマテウスへと繰り出す]
[マテウスからして見れば、その動きは素人のそれにしか見えないことだろう]
[撫でるように触れられた赤い光は小さく震え、青い光は消えそうに瞬いている]
[それは、声をあげずに泣く子供のようにも見えた**]
[自らの名を呼ぶ声。
例え止められたとして振り向くことはできなかっただろう。
たった一つ、零れたのは]
嫌いに、ならないで。
[それだけが怖いのだとでも言うような、か細い言葉]
ああ、大問題さ。
[短剣をなんなく手ではらい、繰り出した右手には武器はなく、
しかしその右手はゼルギウスの胸をつらぬくのには容易な鋭い爪が]
俺の、いや俺たちの敵だってことだからな。
[告げた言葉が意味するところは考えるまでもないひとつのことを示唆していた]
…護っているだけじゃ、やられるだけじゃないか。
[小さく、小さく、呟く。
誰も信じない。何も信じない。ゆえに、疑心は消えない。
ゼルギウスがマテウスへと向かった間に、立ち上がる]
ゼルギウスさん…。
[もうすぐ、多分、彼は死ぬ。]
[わたしは期待して、悲しんで、絶望して、悦んで。頭の中がぐちゃぐちゃだ。]
!
[ウェンデルに掛けた声。
意識は当然僅かであれそちらに向いていたから。
銀は交差し。けれど僅か軌道に間に合わず。
手首を切り裂かれる。持っていた刃を取り落とす]
く…っ。
[傷口の痛みより先に、痺れが走り出す。
それが全身へと広がってゆくのを止める術はなく。
ガクリと膝を突いた。けれど倒れはしない。
襲い来るものに抵抗しようと、唇を強く噛み切った]
[震える赤、瞬く青。
声はない、けれど、泣いているようにも見える様子]
…………。
[言葉はなく。
けれど。
赤を撫でる指は、そう、と宥めるように]
[短剣を払われ上体が開く]
[続くマテウスの動きにはついて行けるはずもなく]
[振り抜かれた爪はいとも容易くゼルギウスの胸を貫いた]
…が……は…っ……。
ぁ……は………お、まえ……が……。
は、はは……あはははははははは!!
う、らぎり、もの…には……に、あいの……まつ、ろ…か…。
く、はは、ははははは!
[止め処なく胸から紅き雫が零れ落ちている]
[そんな状態でありながら、ゼルギウスは愉しげに笑い声をあげた]
[自分が欲しかったものはとうの昔に失っていたことを理解しながら]
[ゼルギウスは全てを失い闇へと意識を落として行く]
[彼の月は欠けたまま、満ちることは*出来なかった*]
……ここに来て、自ら、明かす、か。
[煌めく爪。
自らをぬけがらと切り離したであろうもの。
現世を見つめる暗き翠は、ただ、静か]
……ぁ――
[金属のぶつかり合うに似た音。
視線を転じる。
その先には、爪があった]
人狼、…………化け物……っ
[幾ら冷静であったとして。
幾ら、死の恐怖の中にあったとして。
花に縛られる限り、ウェンデルが人狼を見逃す事は出来なかった。
――花から逃れる手段が、ない限り。]
[置かれたスープ皿に手を伸ばして、投げつける]
[ほとばしる血しぶきを一滴、わたしは指先で掬いとる。]
おやすみ、ゼルギウスさん。
[ちゅ、と音を立てて、その指を舐めた。]
[貫かれるゼルギウス。
言の葉を紡ぐまでもなく、そこに揺らぎ視える、白]
……お前も、大概……。
[続きは、今は、口にはしない]
[爪を引き抜きながら]
いや、ゼルギウス。
前にお前にかけたことばは嘘じゃなかったぜ。
[腕を振るい血を振りほどき、
ウェンデルのほうをみて]
そうだ、ひとついいことウェンデルに教えてやる。
15歳の少女でもいえたことだ。
[ウェンデルに駆け寄る]
殺してるんだから、殺されもするのさ。
[爪を振り上げる]
大丈夫。
[ゲルダのか細い声に、一言だけ。
必死に上げた視線の先、マテウスがゼルギウスに振るったのは]
……させる、か。
[ゼルギウスが貫かれる。
ただ、その後に待ち受けていることだけは]
させる、かよ……!
[まだ僅かに感覚の残っていた左手で刃を探り。掴む]
ゼルギウスは、信と裏切りに重りを置いた人生を送ったようだな。
[感想はそんな短いもの。
それを否定も肯定もせず。]
[投げられたナイフに翠玉の眼差しが、刹那囚われる。
その間隙を突くように、自らよりもよほど早くゼルギウスの身体を紅に染めたのは、]
…マテウス兄さん……。
[翠玉に雑多な感情が揺れた]
[振り上げられる爪は、避けられない]
――ゃ、……だ!
[裂かれる痛み。
朱い花より、紅い華。
身体から力が抜ける]
や――だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……ッ!!
[誰の名を呼ぶこともなく。
ただ、死の恐怖の中に、堕ちた]
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