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[偶然とはいえ、ゼルギウスに痛手を負わせたのは幸いだった。ゲルダらに阻まれ容易に来れない。ヨハナも今は、そう簡単には動けないだろう。]
みんな、お前と同じ思いだよ。
これ以上奪われたくないのは。
[短く返す。
ウェンデルの物言いたげな、だが無言を貫いた事に心の内で感謝しながら。
他に止めるものが現れる前に。
銀の刃を一旦離し、勢いをつけてベアトリーチェの胸元へ――]
貴方も、置いていかれる側の人なのね。
[これまでの丁寧な言葉ではなく、語りかける口調は悲しみを帯びて。
薬を掬う手の動きはいっそ優しい]
うん。一緒。
あたしも、もう…いやなの。
[石の当たった場所に、薬を塗りこんで。
それが終われば、何事も無いように薬箱を閉じる。
ウェンデルがゼルギウスに何かをするとして止める理由も無く]
[弟と重ね合わせ、ベアトリーチェに抱いていた強迫観念]
[それが当たり前と、心には強く根付いていた]
[はずなのに]
[頬に手が触れ、真紅の見つめる先を逸らされる]
[次に捉えたのは、弟と同じ色を持つ青年]
[真紅が見開かれる]
[過去が脳裏を過り]
[困惑が表情を彩る]
ちが……お、れは……。
ほんと、う、に………。
ぃ、や…だ、見、捨て……。
おれ…を、おい……く、な…!
[言葉に否定しようとして]
[含まれた非難に絶望し縋ろうとして]
[自分がどうしたいのか]
[何もかもが混沌に飲まれて]
[ウェンデルにもまた、弟を重ねて居ることに彼は気付くだろうか]
[精神は恐慌状態へと陥っていく]
そんなものに、振り回されるなんて。
そんなものが、全てと思うなんて。
愚かだ。
[咲きゆく朱い花。
熱が上る。
眼差しの温度は、低い。
心も。]
……貴方は、誰を見ているんですか。
[覗き込む。
真紅の奥に映るものを見ようとするように。
金色の底に何が在るか、今の彼にはわかるまいか]
同じ思い…なら、何故…俺からは奪おうと…!
[ナターリエとゲルダの言葉には、噛みつく様な声を上げる]
[傷を負った場所は丁寧な処置により痛みは軽減され]
[しかし衝撃は時間が経たねば治まらぬために暴れるようなことにはならず]
弟は、俺の全てだったんだ!
[ウェンデルの言葉に声を張り上げた]
[同時に瞳を覗きこまれ、真紅を見開いた]
……ウェインツェル──……!
[目の前の青年ではない名が唇から紡がれる]
[それが弟の名であることは想像に難くないであろう]
[見開いた真紅から、滴が零れ落ち、頬を伝う]
[囁きは心の奥底まで響いて]
[頷くこともせず、厭う素振りも見せず]
[身体を強張らせたまま、真紅はウェンデルを見つめたまま]
[ゼルギウスの噛み付くような声には、ただ]
薬師様ならば、その答えは自らの内側にあるのでは。
[抑揚に乏しい声で指摘をするも。
どこか独白めいたそれは、届いたか否か。
いっそ狂っているような様から、翠玉の眼差しを外す。
捕まえていた、その手も解いた。
そんなことをしなくても、真紅の瞳は既に。
金の色に囚われているようだったから]
だいじょうぶですよ、ゼルギウスさん。
[気遣うような視線を見せるような彼に、微笑んで見せる。]
[ただ見る人によっては、その微笑の下にちょっとした不機嫌が隠れているのが分かっただろう。]
[この人にとって、わたしは誰かの代わりなの?いらいら。]
[ベアトリーチェの声に刃が動きを止める。
何をするきだろうか。
だが腕から伸びた刃の切っ先を、彼女が握れるように渡す。
注意ぶかく探りながら。]
[差し出される刃を受け取るべく手を伸ばす。銀の鎌。きれいな刃物。]
[わたしの体が逃げよう、離れようと叫ぶのを、必死に押さえ込む。]
[表面上、何事でもないかのように、鎌を受け取った。]
[わたしは鎌を見つめる。一見躊躇っているように。]
[この鎌は、わたしを傷つける。イヴァンのことは今彼女自身が譲歩したので、もうだいじょうぶ。]
[だけど、この新しいチェックは、かわせない。]
[誰かに無理やり突き立てたとしても、人間の証明をしてしまうだけ。身代わりにはできない。]
[チェックメイトなんだろうか。わたしは半分覚悟を決めて、刃を振り上げ。]
[まっさらな、波立たぬ水面に滴が落ち波紋を広げるように]
[ベアトリーチェの声がゼルギウスに届き意識を戻させる]
……ベア、タ?
[自分でやると、少女はそう告げた]
[最初理解出来なくて]
[ウェンデルに首筋を触れられたまま、ゆっくりとした動きでそちらを見た]
貴方だって誰かから奪おうとしているのではないですか。
彼女を護るために。
彼女が人間であると証明出来ない限り。
人狼が、滅びない限り――いないと証明出来ない限り。
終わらない。
[淡々と言葉を紡ぐ]
私は、……ウェンデルです。
[拒絶を含む声]
貴方の弟じゃない。
彼女も、また。
貴方のものじゃない。
違うものなのに「また」奪われると思うことすら、貴方の妄想では?
貴女はどう思いますか。
ベアトリーチェさん。
[まるで刃の事など見えていないかのように、問う]
代わりでしかないことを。
[指先に微か、*力が籠められた*]
残念だが。
[手を離すと、腕に纏った光後ごと刃はすっと消えた。]
触れていないと、形が作れない。
そこまで万能な代物ではないからな。
[防御にかんしては万能でも、攻撃には制約があった。
離してでも使うことが出来れば遠方から操ることも出来、より殺しやすくなっただろう。
なにより、危険視している子供に切り札を渡すほど、愚かではなかった]
[あの人はわたしに弟を重ねてる。]
[べつに良いよ、わたしはそう思う。]
[だってどうあれ人狼であるわたしに協力してくれるんだから。]
[でもここでそう答えるわけにはいかないよね。]
[「それでも構わないです、側にいてさえくれれば。」]
[ちょっと健気過ぎるかな?関心が薄い様に思われるかも。]
[「…誰かの代わりは嫌です。…わたしじゃだめなんですか?」]
[うん、これでいこう。彼の心理を否定しつつ、でも彼の心象を悪くすることなく、むしろ保護欲をそそる言葉。]
[上出来、さすがわたし。恥ずかしそうにしなを作ることも忘れずに。]
[よし、俯いてさも恥ずかしそうにして、せーの…]
わたしも、あなたの弟さんじゃありません。
[…?]
そんな気持ちでわたしに優しくしてたんなら…大きなお世話です。
[あれ?ちがう、こうじゃない。]
[恥ずかしがってる演技ができない。肩が震える…目が熱い。]
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